ゲームやアニメ、映画などにおいて、「バトルシーン」は物語上の演出の一つとして昔から無くてはならない存在となっています。
そんなバトルを演出する際には「戦闘音楽」が欠かせません。"RPG"を始めとするゲームミュージックでも特に人気が高いカテゴリーがあります。それが「戦闘曲」です。今回はそんな"バトルミュージックの作曲方法"について書いていきます。
目次
- はじめに
- 戦闘画面について
- 戦闘システムについて
- ゲームジャンル別でのバトルの考え方
- ゲームの画面に合った"音色"を選ぶ
- ゲーム音に対する"既成概念"
- ゲーム音楽を作曲する時に意識したいこと
- 前半のまとめ
はじめに
この記事の狙いは、作曲を始めたばかりの方へ"ゲームミュージックの"戦闘曲の作曲方法"を提案する事"です。キッカケは、ゲーム音楽がとても好きな私自身、作曲を始めたばかりの頃にこういった"ゲーム音楽をテーマにした作曲方法"があったら嬉しいと思っていたことが起点となります。
今回は私が実際に作ったバトルミュージックを例に、戦闘音楽のテーマの決め方や考え方、構成の仕方などを紹介したいと思いますが、少し長くなりますので記事を「前編、中編、後編」の三回に分けたいと思います。
早速作曲の説明に移りたいところですが、その前に一つ提案があります。それは、"戦闘曲を作るのなら「バトル」について少しおさらいしておく必要がある"と言うことです。
現在では様々な"バトルシステムのデザイン"が存在しています。その中でも"キャラクター"や"背景"などを始めとする「高精度なグラフィック」、迫力のある「BGM」や「SE (サウンドエフェクト) 」などは、ユーザーの"バトルに対する印象を左右させる"重要な素材です。
最近のRPGのバトルは、そういった"高品質な素材"の組み合わせによって、とても壮快で華やかに演出されていますが、バトルを成立させる為のルールや"システムの骨組み"については昔のゲームスタイルの流用したものが多いです。
したがって戦闘曲を作るからにはそういった、"バトルを構成しているもの"についてある程度理解しておく必要があると思いますので、前半であるこの記事はそれらを順を追って振り返りつつも、ゲーム画面に曲を付ける時のちょっとした工夫など、作曲者の視点から色々考えてみたいと思います。
戦闘画面について
戦闘曲には様々なスタイルがあり、現在でも常に新しい戦闘曲が生まれています。また、色々なスタイルの戦闘曲があるということは、様々なメーカーのゲームジャンルに比例して、それだけ色々なバトルスタイルがあるということです。その中でも、バトルを演出する際に必要になる要素の一つとして「戦闘画面」の存在があります。
戦闘画面はゲームによってデザインが異なるので、戦闘曲を作る際には、"各ゲームジャンルの戦闘画面に合った曲調"を目指す事が重要になってきます。では、代表的なRPGのゲームの画像を例に一つずつ確認していきます。
フロントビュー
「ドラゴンクエストシリーズ」で採用されている戦闘形態。プレイヤー情報はHPやMPを中心に表示、攻撃判定などは主にテキストを中心に行われます。正面に敵の姿を配置し、味方側の姿を表示させないことにより、"プレイヤー自身が戦っているような視点"を与えてくれます。
サイドビュー
主に「ファイナルファンタジーシリーズ」で初期から採用されているスタイル。ステータス表示に加え、敵と味方の姿が可視化された状態でバトルが行われますので、フロントビューと比べると戦闘状況をやや客観視するような形になります。味方キャラに動きがあるので、視覚的にも楽しめる演出になっているのが特徴です。
クォータービュー
こちらもFFシリーズより「ファイナルファンタジータクティクス」の戦闘スタイル。ファイアーエムブレム や タクティクスオウガ などを始めとするタクティカルRPG、または"シミュレーションRPG"と呼ばれるジャンルに採用されている事が多いです。ボードゲームの様な感覚で、各マップの勝利条件を元に、敵の行動を二手三手先読みしながら見方のユニットを動かします。
マップ上でそのままバトルが行われるスタイルの他、上記のような敵と接触することにより専用の戦闘場面に切り替わる「ファイアーエムブレムシリーズ」のような戦闘スタイルもあります。
マルチアングルビュー (3D方式)
「ファイナルファンタジー7」以降のRPGでは殆どこのスタイルになりつつあります。カメラアングルが激しく変化していく様は、もはやアニメや映画のようです。このようなマルチアングル、高性能な3Dグラフィックの採用に伴い、必殺技や魔法などの演出面においても新たな表現力を生み出しました。
代表的なRPGの"戦闘画面の形態"について簡単に振り返ってみました。この記事では単にバトルの紹介をしたい訳ではありませんが、"狙った通りの戦闘曲を作曲する上で必要な情報"は色々あります。
戦闘システムについて
次に「戦闘システム」について考えていきます。ゲームデザインやシナリオ上の演出によっては、戦闘曲を流すことによって「プレイヤーをどんな気分にさせたいのか、またはさせる必要があるのか」が当然変わってきます。
例えば、ノーバルバトル、イベントバトル、ボスバトルなど、"各バトルや場面によっても戦う意味や重圧感、演出"も違ってくると思います。それからゲームの世界観や、キャラクターデザイン、または"グラフィックに合わせて、曲に使用する"音色"などのコントロールが必要"になってくる場合もあります。
ファミコンの画面に PS4 のゲームで使われるような迫力のある音楽を充ててもマッチしないかもしれませんし、シリアスな戦闘場面であまり緊張感の無い曲調というのも微妙です。
それらについてはまた後述するとして、早速メジャーなRPGの戦闘システムだけですが、簡単に振り返ってみたいと思います。
ターン制
"ファイナルファンタジー"や"ロマンシングサガ"、"ウィザードリィ"などを始めとする、多くのRPGで採用されているもはや定番のバトルシステムです。
コマンド入力後は、素早さや装備品などを始めとする様々なパラメータ補正により、攻撃する順番が決定されます。毎ターン一度コマンドを入力すると、敵味方関係なく、前述した数値やゲーム内のルールに従った順番で行動するのが特徴です。
交互制
これに対し、"ドラゴンクエスト1"のような"1対1"で戦うシステムは「交互制」と呼ばれています。ドラクエ2 以降では一度に出現する敵の数も一体以上になり、それに伴い味方側の仲間も増えるので"ターン制"となります。ですが敵と味方の仲間が倒れて"タイマン状態"になれば一時的に"交互制"になると言えます。
リアルタイム制
"ファイナルファンタジー4"で初めて採用された ATB (アクティブタイムバトル) と呼ばれるバトルシステムです。コマンド入力に関しては"ターン制と同様の手順"を踏みますが、"常に時間が流れている"のが最大の違いです。
コマンドが表示されても敵がどんどん攻撃してきますので、プレイヤーには常に"素早い戦況判断とコマンド入力"が求められます。
リニアモーション
「テイルズシリーズ」や「スターオーシャンシリーズ」でも採用されているバトルシステム。上記した"ATB"をベースに、敵との距離感を意識しつつ攻撃するか、技を繰り出すか、またはコマンドを開いて仲間へ指示を出すかなど、操作するプレイヤーへ"さらなる自由度"を提供した"現在のRPGで最も忙しいバトルシステム"の一つです。
両シリーズ共に初期のナンバリングでは様々な行動制限がありましたが、シリーズを重ねるにつれて「フリーラン」と呼ばれるシステムを採用。これによって、実質好きな位置へ自由に移動することが可能になり、アクション性も兼ねた戦略を立てれるようになりました。
以上、メジャーどころの"RPGの戦闘システム"を簡単に紹介しました。
ゲームジャンル別でのバトルの考え方
この他にも
- アクション
- 対戦型アクション
- アクション型RPG
- シューティング
- スポーツ
- アドベンチャー
- サウンドノベル
- パスル
- レース
など、単品、複合ジャンル問わず、殆どのゲームに何かしら大なり小なり"様々なバトル画面"が存在します。
全てを紹介するわけにはいきませんが、どのジャンルにおいても最終的に目指したい事は「ゲームに合う戦闘曲を目指す」という事に集約します。
このように、"RPG"という括りだけでも改めて"色々な戦闘システム"があることを振り返れたと思います。次に提案したいことは、ゲーム画面の"グラフィックレベル"についてです。
ゲームの画面に合った"音色"を選ぶ
ゲームで採用している"グラフィックレベル"によって、曲で使用する"音色"もそれに合わせます。代表的な音源を紹介します。
PSG音源
例えば、ファミリーコンピュータのような画面でゲームデザインするのであれば、いわゆる"ファミコン音源"と呼ばれる音源を使用すると雰囲気を出しやすいです。
こちらは代表的なダンジョン型RPG "ウィザードリィ1" のファミコン版のBGMです。
PSG音源で編曲されています。
ファミコンは"8bit"のデータ量で作られていることから、"8bit音源"、またはピコピコした特徴的な音から"ピコピコ音源"などと呼ばれることが多いですが、音源の正式名称は"PSG音源"と言います。PSG音源 は"ファミリーコンピュータに内蔵されている専用音源"ですが、実機に近いシンセサイザーの音色を選択することで、上記のようなファミコン画面にマッチする音楽を作れる手段の一つになるかと思います。
PSG音源についてはこちら
ファミコンが"PSG音源しか使えない"という理由から、当時はこういった制限の中で編曲せざるを得なかったのですが、今では逆に音色を自由に選べてしまいます。つまり作曲者が自ら"音色をコントロールすることが必要"になってきます。
あえて斬新さを目指すのであれば、ファミコンの画面だから PSG音源 に近い音色を使う、といった王道な方法に囚われる必要は全くありません。
あくまで作曲手段の1つなので、これらを踏まえて 使う道具 (音色) によって"表現できるものが異なる"ということだけ理解しておけば、"ゲーム内容に合わせた音色のコントロール"が出来るようになります。
Magical 8bit Plug
こちらは Win でも Mac でも使える"フリーの8bit音源風のプラグイン"です。
YMCK official website ←音源はこちら
とても使い易く、何より無料でこの再現性は素晴らしいです。是非ダウンロードして"ファミコンっぽい曲"を作ってみましょう。
参考動画はこちら
PSG に限らず音色は一から作るには知識も時間も必要で、それはあまり作曲の本質ではないと思います。絵を書くのは画家であり、道具を作るのはまた違った専門家です。
もちろん音を自分なりに作り込むことで、それを個性の1つとして昇華させる事も重要ですが、"音作りばかりして曲を作らないのは、作曲者としては本末転倒"ですので注意したいところです。
PCM音源
スーパーファミコンのような"16bit"のグラフィックスを使う場合、"PCM音源"と呼ばれる"生楽器の音でサンプリング (録音) された音色"を使うと雰囲気が出しやすいです。これは前提として、スーファミの曲がそういった音色で作られており、それを多くのユーザーが"既存するスーファミのゲームで"体験"している為"です。
KORG M1と"M01"
PCM音源は、シンセサイザーメーカーの KORG が発表した"M1"というシンセで広く普及しました。また、元ナムコのゲームコンポーザーの"佐野電磁(信義)氏"が現在代表を務める会社「DETUNE」が、当時 KORG と組んで、"KORG M01"という Nintendo 3DS 用のソフトを発表しました。その再現性から多くの音楽ファンを熱狂させました。
「KORG M01」は、手持ちのNintendo 3DSが、"KORG M1"と同様の"ワークステーションシンセ"になるという画期的なソフトです。音色は M1 にプリセットされている音色が全て入っていて、打ち込みも出来ますので手軽に作曲できる点も魅力的です。
M1 の登場に伴い多くのシンセメーカーもPCM音源のシンセを発表し、YAMAHA の"AWM2音源"、Roland の"LA音源"、Access の"HI音源"など"各メーカー独自の音源方式名"があるのが特徴です。これらは名称が異なるだけで、全て PCM音源 です。
では話を戻して、先ほどの"ウィザードリィ1"のFC版との比較としてこちらを参考にしてみてください。
(こちらは"一曲ごと"の動画になっていますが、プレイリストになっていますので、左上のアイコンから比較したい好きな曲を選択してください)
こちらの音源の方が、PSG に比べると現存するオーケストラ楽器の音に少し近くなるので、より音楽的なイメージが湧くかもしれません。PSG音源 も PCM音源 でも、"表現力が違うだけ"であり、"曲自体の良さは「原曲次第」"という事には変わりありません。ゲームハードの制約の中、どちらもとてつもない工夫の上で作曲、編曲されていますので、時間がある時などにじっくりと研究するのも良いと思います。
ちなみにこちらはFC版のアレンジバージョンです。さらに表現力が増していますが、この品質であれば"PS以上のレベルのグラフィックに合う"と思います。また、ウィザードリィは戦闘画面があまり動的ではない為、逆にこのような"クラシック音楽のような曲調でも、戦闘の雰囲気を十分に出せる"と言う事にも注目したいです。
PSG音源 で編曲している時も、ウィザードリィの作曲者である"羽田健太郎氏"の頭の中で鳴っている音のイメージは、このような感じだったのではないかと推測します。また、ドラゴンクエストの作曲者の"すぎやまこういち氏"は、先にオーケストラで譜面を書いてからゲーム音源で編曲しています。
このように作曲者によって、"色々なゲーム音楽の作曲スタイル"がありますので色々調べて参考にしてみるのもヒントになります。
FM音源
その他にも"FM音源"などと呼ばれる"アーケード"や"PCゲーム"を中心に普及した音源"などもあります。"金属的な音が特徴"な音源で、今でも40代を中心とした多くのユーザーに支持されています。また音源としての価値も見直され、KORG や YAMAHA などのシンセサイザーにも搭載されている人気のある音源です。
ファルコムの代表作の"イースシリーズ"は、作曲家の"古代祐三氏"が初期のナンバリングを手がけ、それらが高い評価を受けた事で"ゲーム音楽の知名度"が上がりました。
イースシリーズは、その人気ぶりから多くのハードに移植されており、サウンド面においても様々な"アレンジバージョン"が存在します。
また、移植に伴いゲームグラフィックスの違いだけでなく、曲のアレンジや"音源の違い"を聴き分けて楽しむ音楽ファンのユーザーも非常に多いのも特徴です。その中でも"PC-8801"で発売されたゲームの"FM音源サウンド"は特に人気があります。
こちらの動画では、イースも含めたファルコムの代表作の中でも、FM音源が使われている作品の曲が聴けます。やはりサウンドだけでなくグラフィックも特徴的ですね。
ゲーム音に対する"既成概念"
このように多くのゲームユーザーは"これはファミコンの音"、または"スーファミならこういう音"などという"既成概念"を少なからず持っていると思います。であれば、"音色もそれに合わせて使い分ければ、"大衆的なイメージ"に繋げやすい"と言う風にもとれます。
このように、音楽にそれほど関心が無い一般的なユーザーに対しても、サウンド面から"ゲームの曲と認識してもらう"作曲方法もあります。
ゲーム音楽を作曲する時に意識したいこと
バトル曲に限らず、ゲーム音楽を作曲をするにあたってプレイヤーに"最低限感じてもらいたいこと"があります。
それは
- 「画面/グラフィック」と合っているか
- 「場面/シーン」と合っているか
この2つです。「グラフィックに合わせた音色の品質」「シーンに合わせた曲調」この2つを意識していけば、ゲームを通して作り手と遊び手の"音楽の共有"が実現すると私は思います。
最も難しいのが、それらを踏まえた上で「プレイヤーの心を掴むメロディ」を創り出すこと。音色や曲調のコントロールは知識を得ればどうにかなりますが、"メロディ"だけは作曲者のセンス次第なので、"自分が良いと思うメロディラインを研究する"しかなさそうです。
しかし逆を言えば、前述した2点さえ押さえることが出来れば、仮にメロディの印象が残るような曲だと思われなくても、"ゲーム上での曲としての役割は果たす事が出来る"と思います。ゲームによってはその方がプレイに集中できたり、結果的に画面を盛り上げることが出来、プレイヤーに良い曲だと感じてもらえるかもしれません。
前半のまとめ
作曲を続けていく中で、上記のような方法に囚われないことも大事です。ですが、ゲーム制作の歴史上、ハードに沿ってそういった音源、音色が使われてきた事を知る事は重要です。これは作曲者として、手っ取り早く自分の作った曲を"ゲーム音楽っぽい"と認識してもらう為の"一つの手段"として覚えておきたい方法です。また、"曲の品質が画面に合うかどうかを見極める視点を持つ"意味でも重要だと言えます。
いくら質の高い何十万円もするリアルな音源を大枚はたいて購入しても、使い分ける技術や視点が無ければ「ゲーム開発者が欲しいと思ってもらえる品質の曲」を提供出来ないと思います。
今回、戦闘画面やバトルシステムを紹介した理由は、上記した"ファミコン"や"スーパーファミコン"の例のように、「音源を使い分ける技術、画面に合わせようとする視点」この二点を伝えたかった為です。これは作曲者として、自由に音色を選択出来る"今だからこそ必要な技術"だと思います。
次回の中編は、いよいよバトルミュージックの作曲方法を書いていきます。