ゲーム音楽の巣

フリー音楽素材サイト「音の園」の管理者及び作曲者。このブログではキーボーディスト、ゲームミュージックの作曲を中心に音楽雑記を書いています。健康第一。

「PSG音源」と「ファミコン音楽」について

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Photo by wikipedia

PSG音源」と呼ばれる音源をご存知でしょうか? 代表的なものだと、ファミリーコンピュータで鳴っているあのピコピコサウンドです。

今日はそんなファミコンに内蔵されている PSG音源 と呼ばれる魅力的なサウンドと、同時に鳴らせる音の「使用制限」について書いてみたいと思います。 

PSG音源とは?

Programmable Sound Generator - Wikipedia

Programmable Sound Generator(プログラマブル・サウンド・ジェネレーター、PSG)は、音を作り出す電子回路の一種。狭義には、ゼネラル・インスツルメンツ(GI)のAY-3-8910および相当品。広義には、それらと基本原理が同じ回路の総称。単一の音源チップないし、より多機能なチップの機能の一つとして供給される。

複数の基本波形(AY-3-8910では矩形波×3+ホワイトノイズ)を合成してさまざまな音色を出し、エンベロープ・ジェネレーターでADSR(立ち上がりや余韻などのパターン)を変化させる。

 

ファミリーコンピュータに搭載されている音源は次のような仕様である。

  • パルス波(矩形波)発生装置 2系統(デューティー比3:1、1:1、1:3、1:7切り替え)
  • 三角波発生装置 1系統(4bit波形、音量は仕様上固定だが、DPCMと絡んだバグに近い挙動が存在し、これを利用するといじることが出来る)
  • ノイズ発生装置 1系統(擬似乱数雑音・短周期ノイズ切り替え、周波数変更が可能。ただし、最初期型(コントローラのボタンが四角いゴム)のファミコンでは短周期ノイズは出せない)
  • DPCM 1系統
  • ミキサー

この音源はファミコンのCPU RP2A036502カスタム)に組み込まれた機能の一つであり、pAPU(pseudo Audio Processing Unit)と呼ばれている。 pAPUのパルス波発生装置はゲームボーイゲームボーイアドバンスにも搭載され、矩形波だけでなくデューティー比1:7パルス波などの独特な音色も出せる表情の豊かさがPSGの矩形波との大きな違いである。

簡単に説明すると

ファミリーコンピュータでは音を最大同時に「4音」鳴らすことが可能です

その「4音」の内訳は

  • 矩形波×2 主にメロディを担当する パルス波とも呼ばれる
  • 三角波×1 主にベースラインを担当する
  • ホワイトノイズ×1 主にリズム、効果音(SE)を担当する

となっており、三角波とホワイトノイズは各一音ずつで固定となっています。

最大同時発音数は3音と呼ばれたりもしますが、これは音階を持っている矩形波、三角波の同時発音数が最大3和音であり、これにノイズを含むと最大4音になります。

この制約の中でファミコンゲームの音楽は作られてきたのです。

また DPCM という「サンプリングされた音を鳴らす拡張音源」を5つ目の音として用いられているゲームソフトも存在しますが、その容量の大きさからコストがかかり、ごくわずかなゲームにしか使われていないようです。

このように、ゲームによっては初期と後期に発売されたものでも容量が異なる (値段も高い) ので、必ず全ての音が使われているということではないようです。

ファミリーコンピュータ - Wikipedia

FFシリーズ(1.2.3)のバトル曲の違い

少し例をあげてみます。

FF1、2もファミコンソフトですが、バトル曲に関してFF3になってからサウンドに変化が見られました。それがホワイトノイズが登場したことであり、この音は本来、効果音に回すとが多いのですが、このバトル曲においては「リズムセクション」と「効果音」の両方を演出しています。

リズムセクション

所謂ドラムパートと考えてもらえると分かりやすいのですが、このホワイトノイズが8ビートのリズムの役割を果たしています。

効果音

そしてホワイトノイズのもう一つの使い方は敵に攻撃した時の「ダダダダダ」という音や、魔法を使って攻撃した時の「効果音」というサウンドに割り当てられています。

SE (サウンドエフェクト) とも呼ばれます。

ホワイトノイズ

FF1、2のバトルはノイズが無く、矩形波、三角波のみの最大3和音で曲が作られています。

基本的にファミコンではノイズを使わない場合、音階と音の強さのみで躍動感やリズム感を出さなければ鳴らないため、ベースラインは非常に重要な役割を果たします。したがって音階自体が非常に作り込まれたものになっています。

余談ですが、主にベースラインを担当する三角波は「音量の制御」が不可能であり、音の大きさを決めたらずっとその音量です。ただし裏技で変化させることもできるとか。

詳しくはProgrammable Sound Generator - Wikipedia

 

ノイズを使わない理由は色々あるようですが、基本的には効果音 (SE) で使用したいことが大きいのではないでしょうか?

これに関しては各ゲームメーカーや、作曲者の意図、ゲームのジャンルによって一概に言えませんが、効果音をきちんと鳴らしたい為にデータ領域を別でとっておくという考えですね。

音の制約

先ほどの話の続きですが、ファミコンでは「4音」をオーバーすると音が消えます。何の音が消えるかは一概に言えませんが、矩形波か三角波が消えます。

効果音をノイズで固定すれば、残り3音で音が消えることを防げそうなものですが、効果音というのは前述したノイズだけでなく、アイテムを入手したり、ステータス画面での選択、キャンセル音など、音階を持つ表現力が必要なものもあります。

それらによる音切れを回避する為にゲームクリエイターの方たちは「どのように音を扱うか」を考えてきたのですね。

様々なゲームのジャンル

例えばアクションゲームなどはだいたい曲調が決まってくると思います。

常に画面の状態がリアルタイムで変化するアクションゲームでは、プレイヤーが楽しくゲームに熱中できるようにノリの良い BGM が必要になってきます。

ですが、基本的にアクションゲームには物語やストーリー性があるわけでは無く(一部例外もありますが)殆どがアクションステージの曲がメインになってきます。

 

面白い曲、楽しい曲、激しい曲、テンポが早い曲

アクションゲームに必要なのはこんな感じではないでしょうか?

 

逆にRPGにおいては一番色々なジャンルの曲が必要と言われており

その理由として登場するキャラクターを通してプレイヤーに「感情」を持たせることが必要になるからですね。「物語の体験」これがRPGです。

 

物語の体験というのは、ゲームの中のキャラクターの人生を体験すると言うことですから、極端に言い換えれば私たちの人生と近い状態であると言えます。

 

ユーザーの感情を揺さぶるのに「テキスト」を用いていることが大きく

「文章」を使っての表現はプレイヤーに物語やストーリーを「一番分かりやすく」体験させるということになります。

小説を読んでいても絵と音楽が無いだけで、同じことが言えると思います。

 

RPGには大きく分けて「感情の変化を演出する曲」と「場所を演出する曲」の2通りがあると思います。

 

「感情」を表現する音楽

悲しい曲、楽しい曲、怒りの曲、回想する曲、喜びの曲、人を愛する曲

 

「場所」を表現する音楽

お城、街、洞窟、遺跡、フィールド、乗り物、ステージ

 

大雑把ですが細分化すればまだまだあると思います。

 

音の制約に話を戻しますが

このようにゲームのジャンルによって、プレイヤーにとって曲が優先なのか、効果音が優先なのかが変わってきます

アクションだとやはり効果音が無いと迫力や気持ちよさが演出出来ないため、効果音が鳴らなくなるといったことは避けるべきだと思います。

そうなると、メロディとベースの2音で最低限ユーザーを満たせる音楽を表現する、という考えになります。

 

ここでクリエイターたちの工夫が発揮されていきます。

スーパーマリオの音楽

マリオの「地上のテーマ」の音楽は世界中で有名ですが、とにかくメロディとベースの音と音の隙間を無駄なく埋めることで、どこで効果音が入ろうが音が一瞬途切れようが、体感上問題無いレベルにまで工夫されています。

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マリオはアクションゲームの為か、ノリ重視でホワイトノイズでリズムの音を最初から使っていますが、効果音は矩形波で音階で演出してたりします。

 

コインをとる音 シとミ

1UPの音    ミソミドレソ など

 

従って連続でコインを取ったりするなどで音が消えることもしばしば発生しますが 、メロディの強さで音切れをカバー出来ているのですね。

ドラゴンクエストの音楽

ドラクエ1は完成するまでに色々な制作秘話がありますが

例えば音楽を任された「すぎやまこういち先生」は、完成一週間前で音楽をすべてやり直すといった制約の中で名曲を生み出しました

 

すぎやま先生は、元々は歌謡曲の音楽を作っていたポップス界の大御所。しかし、多重録音が当たり前の歌謡曲というジャンルとは違い「3和音という制約は、逆に作曲家としての挑戦心を揺さぶったそうですね

 

マスターアップ間近で合ったため、音楽のメモリーもそこまで残されていおらず、まして終盤での参加で合ったため、通常の作曲家であればまともな音楽は作れなかったでしょう。

すぎやま先生でさえも当時はゲーム音楽界での実績はなく、歌謡曲での知名度、手腕は皆認めるものの、ゲーム音楽においての信頼度は良いものとは言えない状態だったようです。

 

城や街で人に話しかけるときにテキストが表示されますが、その時も

「ピピピピピピ」といった音が流れます。あれも当然含まれます。

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普通に考えれば、矩形波と三角波は使用するので、この時点でメロディで和音(ハーモニー)は使えないな、とか色々考えてしまうのですが、なんと2音で作りきってしまうのですね。作曲技術のレベルが最初にドラクエ1の音楽を作っていた人に比べて桁違いだったそうです。

 

効果音が鳴っているときに音楽が途切れるのはダメ

 

お城にいるときに階段を降りたり、フィールドに出たり、戦闘中に攻撃した時にホワイトノイズの SE が鳴ります。また、呪文などでも ノイズ 以外の音が鳴ります。その時に音楽が消えないようにドラクエ1は基本的に2音で音楽が作られています。

ただ、オープニングとエンディングにおいては基本的に画面と音楽だけで音階的な効果音は必要無いため、3和音使っても良いと言われたようですね。

 

音楽なんて2音あれば十分

 

これはすぎやま先生を表す有名なセリフですが、ドラクエの音楽は「2音あれば十分」という前提で音楽と向き合っていたからこそ出来た名曲ですね。

 

ドラクエをプレイしてから、すぎやま先生、ドラクエ音楽が大好きでコンサートへ足を運ぶほどファンになり、今でもずっと聴き続けていますが、そういった制約の中で作られたとか、元々オーケストラに直す想定でイメージして作ったとか。そんな話を聞くとますます音楽がどれだけ深いものかと感じます

よろしければこちらも

andy-hiroyuki.hatenablog.com