DTMを使ってゲーム音楽などの楽曲を作りたいと思ったとき、良くある悩みとして
「どれくらいのトラックを重ねればいいの?」と言う疑問があります。
僕はこれまで独学、手探りで作曲をしてきましたが、今でもこの問題は時々考えたりしますので、現段階で出ている考えを共有したいと思います。
では、「ゲーム音楽の作曲」と言う前提で話を進めたいと思います。
目次
まず「8トラック」で考えてみる
多分ですが、今時DTMで作曲を始めた人からすれば「え、8トラック!?少な過ぎでしょw」ってなると思います。
ゲーム音楽はいざ知らず、歌ものを作っている人ならなおさらでしょうね。
リズムトラックだけで8なんて超えてますよ、って。
まず結論から言ってしまうと、
「トラックの使い方は人それぞれ違います」
なので「トラック数」で考えないほうがいいと思っています。
考えるなら「同時発音数」ですね。
(同時発音数とは、何和音、何音が同時に重なっているか、の数字になります)
見出しに「8トラック」書いてしまいましたが、
正しくは「同時発音数を8音で考えてみる」の方が伝わりやすいかと思います。
なぜ「8音」なのか?
ファミリーコンピュータは最大同時発音が4音、和音は3音
スーパーファミコンは最大同時発音が8音、和音も8音
ファミコンは音程を担当する「矩形/パルス波」「三角波」が3和音、そこに「ノイズ」1音を加えて4音となります。
ファミコンは”PSG”と言う内蔵音源を使用しているので、打ち込みのテクニック面とは別に、音源に関して言えば平等です。(DPCMは除く)
対してスーパーファミコンはPCM音源が扱えるようになり「サンプリング録音」が可能になりました。これで音色の幅は相当に広がった、、とも言えるのですが・・・
基本的にはゲームソフトの容量に対して、サウンドに与えられた容量が決まっているので苦労したようです。
そこで、サウンドプログラマーの手腕が問われ、音質がピンキリ状態に。
いくら好きな音を録音できるようになったとはいえ、スーファミで鳴るように変換するには容量が限られてます。
そこで音色によっては原音より劣化してしまう音色もあるのですが、それこそがスーファミの音、と言うような個性を生み出しました。
そこで作曲者はアイデアを振り絞って
「少ない音数でどうやって曲を充実させるか」
ずっとこのことを考えてきたはずです。
何を優先して、何を削るか・・・
どんな重ね方をすれば、アレンジで表現すれば、よく聴こえるのか・・・
サウンドプログラマーはそんな作曲者の意思を汲み取り、どこまで作曲者がイメージしているサウンドにしてあげられるか。
常に容量との戦いだったんですね。
ゲーム音楽を作る上では、まずこの事実を知っておくことが大事だと思っています。
今のDTM環境は贅沢なの?
確かに「昔は昔」「今は今」なんですが、温故知新って言葉があるように
「昔の製作環境を知ることは、アイデアや発想を広げるために有効」
テープレコーダーやMTRなどで作曲、デモ音源を作っていた世代の人は分かると思いますが、多重録音には様々な工夫があります。
4チャンネルしか無いなら、1と2を録音して音質が劣化してもそれを1にする。
こう言う工夫が色々ありますよね。
例えば、今こうして悩んでるトラック数、チャネル数についても昔を知れば「目安」を設けれるわけなんですね。
であれば
「まず8トラック、8音で限界まで作ってみよう」
と言う挑戦ができるようになります。
ゲーム音楽が好き、とはいえ、僕のような30台前半とプレステ2や3が生まれた時からあった、と言う世代ではゲーム音楽のイメージも全然違うと思います。
僕も若い子にファミコンを知ってるか、と尋ねると「あ〜なんかあったみたいですね、スーパーファミコンは見たことあります」ってレベル。
スーパーファミコン、プレステなんてゲームの黄金時代の作品ばかり
ゲーム音楽のファンも未だにずっと評価してて、それは当然少ないトラックで作られてきたサウンドです。
つまり、そんな「スーパーファミコン」や「ファミコン」の音楽にこそ、ヒントが隠されているはずです。
少ないトラック数でも、いい曲はいい曲なのかな?
そんな勇気をもらえますよね。
ゲーム音楽の境界線
もはや映画音楽、最前線のゲーム音楽に限っては使ってる音源が一緒だったり、表現の仕方が多少違うだけで同等レベルの扱いになりつつあります。
もちろん、スマホゲームやレトロ風のあえての昔風、を除いては容赦無く高品質なサンプリング音源を使うのが当たり前になってます。
PCのスペックも要求されますし、それでトラック数も贅沢に使うか決まってきます。
と言うことで、そう言う状況だから「プロはもっと音重ねてるのかな?」って疑問になると思うんですよね。
僕もそれは気になります。
まず前提として音楽制作のソフトは進化してます。
10必要だった過程が、2で良くなる、と言う進化がチラホラ出てきてます。
例えば、目指してる音圧を出すために、2トラック重ねる必要があったのに、これ使ったら1トラックでいけちゃった、みたいな。
それも、そのソフトを持ってるかどうか、その音源を持ってるかどうか、それに対してPCが快適に動作するかどうか、と言う問題もあります。
つまり、トラックを贅沢に使うかどうかも含めて
「人によってトラック数なんて全然違うぜ」ってなってると思います。
(ガチモンのプロに怒られそうだな・・・)
多ければいいって話じゃない
例えば、確かサンレコで書いてあったんですが、進撃の巨人の紅蓮の弓矢は500トラック使っているらしく、それって自宅の環境では無理な作業内容です。
まぁ話は極端だし、それだけの音を操れる人もいませんよね。
100トラックでもPCや音源によってはまともに動きませんし。
どれくらいの長さの曲を作るかにもよりますよね。
プロモーションようなレベルのオープニングなのか、短いループなのか、本格的なオーケストラなのか。
また、少ないトラックで済むようなアレンジにするのも昔からある手の1つですし、これは今の時代だからこそ自分で選択しなければなりません。
多く重ねてもごちゃごちゃして聞こえづらければ意味がありません。
僕はPC用のゲームで作っている曲については20〜30トラックくらいですが、瞬間風速の同時になる音数で言ったら確実に10音〜15音程度くらい。
まだまだ音を重ねれるかもですが・・・自分の力量不足で、音を入れる隙間やイメージを捉えられてないんですね。
適当に数増しして入れるのは簡単なんですが、それをすると意味のない重なり方になることがほとんどです。下手したら聴かせたい音が綺麗にならなかったりします。
それなら無理に増やさず、1つ1つ意味がある聴こえ方を優先します。
足したら引く、それが音楽
スーパーファミコンの音源を使ってるオリジナルゲームでは、8音を目安に、3〜5音前後になる曲もありますね。
ピアノソロやギターソロ、デュオ、カルテットの曲がそうであるように、必ずトラックが多いことが良い曲、迫力がある曲、と言う話ではありません。
音楽は「足し算、引き算」なので、表現したいイメージの元、必要な音を足していくのが大事だと思ってます。
ただ、PCで曲を作る場合、常識を破って音を重ねることで斬新な表現、個性を繰り出すこともできる時代なので、生演奏はこうだから、と言う常識も時には捨てることが必要だとも思ってます。
曲調によっても必要な音圧は全く違ってくるので、色々な曲を聴いて「どれくらい重ねるかと言う価値観」さえもが、自分の個性だと思います。
制限の中で生まれた名曲
そんな中、昔のゲーム音楽は今でも十分に評価されています。
僕はそこがヒントだと思っていて、それはトラック数、同時発音がもっと多いからとか、そう言う問題じゃない気がしています。
ファミコンの少なさだとガチの工夫レベルになってきますが、スーファミの8音になるとシーンの表現には十分なトラック数です。
フレーズ自体が強力であれば、わざわざコード感を出す必要もなかったり、シーンを表現する上で必要な音が揃っているか、と言うだけの話なんですね。
もちろん、それだけではまだまだ生演奏レベルの音、シンセサイザーの音圧、複雑な変化を組み込めないことで、サンプリング段階から工夫されていたものもあります。
ドンキーコングの水中ステージの音楽、とんでもないことになっていたようですね。
KORGの WAVESTATION というシンセがありますが、異なる波形を組み合わせて1波形で複雑な変化をもたらす手法を、スーファミでやってのけたと。
こちらの記事に動画の翻訳が載ってるので、気になる方は見てみてください。
まとめ
僕の価値観をまとめると
- 最低限、曲を表現するに必要な音を割り出す
- 目安は「8和音」
- それに加えてどういったサウンドがさらに必要かを考える
- 足して意味あるかを常に考える
- 音は必要以上に足したら、必ずどれかを引く
- 自分が良いと思った曲を、もう一度よく聴いてみる
- 制限の中から名曲は生まれる
そんな感じで、抽象的ですが、
ゲーム音楽なら「8和音」を軸にして、それ以上必要なのか、を考えてみましょう。
終わりに
僕は、まとめの最後に書いた「制限の中から名曲は生まれる」が全てだと思ってます。
その事実が過去のゲーム音楽の歴史なんですよね。
どれだけアレンジアルバムで生演奏が録音されてても「ゲームで流れたまんまのサウンドが良い!」って言う声があるように、そこが音楽の面白い部分。
制限が無かったら生まれなかった発想やアイデア、曲がたくさんあります。
と言うことは、曲が良いかどうかにおいて数が多いことは必ずしも正義ではないと言うことです。
僕もそれを肝に免じてトラック、音を重ねていきたいと思います。