Photp by Mixed In Key Community
キーボーディストの皆さん、「トランスポーズ機能」は使っていますか?
トランスポーズは便利な機能ですが、常用する際にはそのメリット、デメリットを十分に理解した上で行うべきなのです。
今日はトランスポーズ機能を用いた便利な技の紹介や、使用する際の注意点なども含めて筆者の経験よりお話したいと思います。
目次
トランスポーズ機能とは?
キーボードの機能におけるトランスポーズは「移調 (キーチェンジ) 」という意味合いを持っており、文字通りボタン一つ押すだけで簡単にキーチェンジすることが可能となります。
±1〜12、24、36〜の単位で設定可能で、ボーカルに合わせて移調する場合は±6程度までが妥当です。
±1で半音、±2で全音 (一音) という風になっていきます。
早速見てみましょう。
±0の場合
何も効果が出ていない元の状態の設定です。
+2の場合
全音 (一音) 上がっている状態です。ドを弾くとレが鳴ります。
-3の場合
一音半下がっている状態です。ドを弾くとラが鳴ります。
どのキーボードも操作はだいたい同じで、大抵はトランスポーズのボタンを押しながらC4 (真ん中のド) の鍵盤を中心に押すと反映されます。
移調が必要とされる場面
一般的な使用例としては、カラオケなどですね。
基本的に、男性ボーカルの曲を女性が歌う場合 (逆も然り) などで使用することが多いですが、同性でも出せる声の音域が人それぞれ違うので同じことです。
出せる声の高さによって、原曲本来のキーではとても歌えない場合がありますので、そんな時には自分の出せる声の高さに合わせて移調を行います。
もちろんバンド演奏において、コピーやカバーをする際にも有効ですね。
また、特にキーボードやピアノ奏者は「#」や「♭」の数によって黒鍵を多用することになるので、曲の弾きやすさ、譜面の読み取りやすさに影響があります。
このように調号によって演奏の難易度に影響がありますので、しばしば鍵盤奏者はキーチェンジによって演奏が簡単になったり難しくなったりと忙しいのです。
いずれも、しっかりとした意図、目的を持って移調をしましょう。
DAW、作曲ソフトでも活躍
歌モノ、インスト問わず作曲においてもトランスポーズは活躍します。
当然ですが、キーによってコード進行や、曲そのものの雰囲気が変わってきますので、フレーズを打ち込んだ後に別のキーを確かめたい場合にも有効ですね。
トランスポーズは演奏をサポートする機能の他、このように制作面においてもクリエイターのアイデアや発想を素早くサポートしてくれる一面を持っています。
また、MIDI 情報を使いますので、他の外部音源やキーボードなどにも移調した状態で信号を送ります。
A のキーボードで移調したら、MIDI ケーブルでつないだ先の B (OUT) のキーボードも A (IN) のキーボードで鳴っている音が鳴ります。
絶対音感を持つ人には辛い?
絶対音感がある人は、鍵盤の音域を見ただけで音が分かるかと思います。
私は持ち合わせていないのでその辛さは正直分かりかねるのですが、ド (C) を押しても レ (D) が鳴るというのは気持ち悪いコトこの上ないそうです。
絶対音感を持つ人はすぐに正確な音を認識することが可能な反面、平均律のチューニングを無視した使い方をすると頭で分かってはいても聴覚上、身体が受付けない人も多いようですね。
絶対音感を持つギタリストが指板を見て、完全にピアノの鍵盤と同じような感覚を持っているとすれば、変則チューニングやカポタストを用いた移調技も気持ち悪いかもしれません。
筆者のトランスポーズ事件
ある時、ボーカルスクールの定期発表会でライブをすることがあり、私はサポートキーボーディストとして20曲近い曲を演奏することがありました。
その時にボーカルの女の子の一人が
「すみません、今日体調が悪くてキーを一音下げて欲しいです」
「おい、マジか (汗) 」
いきなり本番のリハに入る前に言ってきたのです。
よくあることなのですが (あって欲しくない)、やる曲が盛大なバラード曲であったことが演奏メンバーを悩ませました (確か Crystal Kay さんの曲だった)
で、こういう時こそキーボードの「トランスポーズ機能」が大活躍するのです (笑)
キーボードパートのアレンジをすべて変更し、シンプルにピアノとストリングスのレイヤーのみで伴奏するスタイルに、低音もオクターブをめいいっぱい使いドラムと共にサウンドの核になります。
もはや、曲さえ分かればOKというアレンジに変更。
ギターとベースは間違った音だけは弾かないように、余裕があるセクション時のみオブリなどで参加しよう、その変わり音はしっかり出そう、ベースはルート弾きで行こう、とリハ後に作戦会議。結果、無事に逃げ切りました。
譜面のコードを書き直せば、キーボードも伴奏くらいならトランスポーズを使わなくても乗り切れますが、イントロなど決まったフレーズがある場合はやはり危険です。
このように、いきなりキーチェンジを現場で余儀なくされた時もトランスポーズは絶大な力を発揮してくれますので、キーボーディストは積極的にこの機能をフル活用してギターとベースをカバーしましょう。
ただ次の曲の時に、危うくトランスポーズを戻すのを忘れて焦ったのは言うまでもありません。これキーボーディストあるあるですね。
絶対にキーを元に戻すのを忘れないように注意しましょう (笑)
トランスポーズを応用したアイデア
基本的にトランスポーズは、上記の例のように移調せざるをえない場面で使うことが多いのですが、使い方次第では、音楽の発想やフレージングの発見など様々な応用が期待できます。
筆者が昔使っていた技や、今でもたまに常用している使い方を少し紹介したいと思います。
フレージングを広げる
例えば、キーがFの曲でFのペンタトニックや、ミクソリディアン、ブルーススケールなどを使うとしましょう。
その時に、色々な定番のリックを覚えるまではどうしてもキーによって毎回同じような手グセ、フレーズになってしまう場合があります。
これはキーボードの場合、鍵盤の配列がキーごとに完全に決まっているので仕方ありません。早い話、FのキーでGの鍵盤配列のイメージで弾けません。
そこで例えば、Fの曲で一音下げて、ソロだけGペンタトニックを弾くとFペンタトニックを弾いていることになる、という設定にします。
すると、普段のFペンタの鍵盤の音域や配列、視覚情報から解放され思いもしないようなフレーズが出てくることが多いのです。
響き的な問題もありますが、鍵盤の配列がそもそも違いますのでフレッシュな気分で演奏することが出来るんですね。
ただこれは、絶対音感を持つ人には理解できない使い方でしょう (笑)
フレージングに行き詰まった際には、練習時にこの方法で自分の演奏を録音し、マンネリしがちなキーに対して新しいフレーズのストックを習得するのも良いと思います。
(もちろん、録音したものを聴いて、実際の原曲のキーで再度耳コピーしてくださいね)
キーチェンジして作曲してみる
たまには移調して作曲してみるのも良いかもしれません。
作曲の仕方にもよりますが、やはりEで作曲するなら、Eという情報がすでに頭にあるので毎回同じリフやフレーズになる場合もあります。
それをEで弾くけど、実際にはGが鳴っているというような発想で音を出せば出てくるメロディやフレーズに変化があるかもしれません。
これは上記の例の応用になります。
注意点としては、いずれも何も考えずに常用しすぎると各キーに対しての音感が身に付かなくなる危険性があるので、あくまでアイデアの一つと認識して行うのが良いでしょう。
音色作りで多用する
主に、オクターブ違いの同音色をレイヤーすることによって単音弾きでも音圧を増幅させます。ポップスなどは、立ち上がりの早いリードストリングスが裏メロを担っていることも多いので、一音弾くだけでオクターブ上の音も出るように設定します。
まだまだ他にも色々とアイデアはありますが、このようにキーボーディストならではの工夫やアイデアが演奏面に大きな影響を与える要因になります。
トランスポーズの偏見
便利なトランスポーズ機能ですが、中には「ズルい」、と言った意見もあります。
私の考えとしては、ズルいというのは本人だけの問題であり、それによって影響を受ける人 (ボーカル) のことを考えると、きちんと演奏できる自信がないのなら使うべきだと思います。それはお客さんや、聴く人には関係のないことだからです。
「なんか色々ミスってたね」「実は本番でキーチェンジがどうこう・・・でもズルしないでそのまま演奏したんだよどうこう・・・だから難しかったんだよどうこう・・・」
これは聞いてられない言い訳になります。
また、そのためにこの機能がわざわざあるわけなので、キーボーディストなら是非テクノロジーを駆使していきましょう。
ただ、アコースティックピアノなど、生楽器で弾くときには通用しませんので、それらも踏まえた上で活用してくべきだと思います。
最後に
トランスポーズはボタンひとつで簡単にキーチェンジが出来る便利な機能ですが、考えて使用しないと自分の音感を鈍らせる原因にもなると思います。
またこういったアイデアや追求心が、個性を出せるようになるキッカケに繋がります。
いずれも重要なのは、使い手がどういった考えで使用するかだと思いますので、目的をしっかりと定めた上で有効活用していきましょう☆
キーボーディストはテクノロジーを駆使せよ!使える機能は全て使うのだ!
↓こちらのサイトも少しずつ作ってますので、チェックして見てくださいネ。