ゲーム音楽の巣

フリー音楽素材サイト「音の園」の管理者及び作曲者。このブログではキーボーディスト、ゲームミュージックの作曲を中心に音楽雑記を書いています。健康第一。

『ピアノタッチ』にこだわるキーボーディストは『88鍵盤』で何を表現したい?

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Photo by Roland

「ピアノから始めたから、常にピアノタッチで弾きたい!」

ピアノタッチ志向のキーボーディストにとって、これはもはや至極当然のセリフで聞き飽きた方も多いとは思いますが、実際外へ運ぶとなると色々と大変なのです。

前回「88鍵盤のキーボード、ステージピアノ、シンセを運ぶ注意点について」筆者の経験より色々書いてみました。

andy-hiroyuki.hatenablog.com

今回はその延長で、運ぶことではなく「なぜ88鍵盤、ピアノタッチを選択するのか」という部分にスポットを当てて考えてみたいと思います。

ライブやスタジオ、セッティングで88鍵盤のピアノタッチを導入することについて少しでも迷っているならば、これらを再考することによって今一度自分の決心を固めることが出来るのではないかと思います。

ぜひ一緒にピアノタッチ、88鍵盤について少し考えてみましょう☆

目次

はじめに

前回でも少し取り上げましたが、88鍵盤、ピアノタッチを選ぶ際の共通の悩みは

  • 運べるかどうか
  • ピアノタッチで弾きたいかどうか
  • 88鍵盤の最大音域が必要か

大体こんなところでしょうか?

運ぶことについては前回お話ししたましたので、今回は残りの二つ「ピアノタッチ」「88鍵盤の音域」について見ていきたいと思います。

あなたは88鍵盤で何を表現したい?

88鍵盤のキーボードをわざわざ重いと分かっていて選ぶ理由は、基本的には「ピアノタッチ」と「最大の鍵盤数をもって可能な演奏表現」です。

これらは実用面から見た価値観になります。

テクニック重視思考、実際の音、演奏面での利便性、機能性を追及した価値感です。

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「やっぱピアノタッチ弾きやすいわ〜w」

対して、見た目やビジュアル、使う楽器の持つイメージから放たれる存在感などは、視覚的な価値観と考えてよいでしょう。

つまりは「88鍵盤を弾く姿を見て欲しい、アピールしたい」という価値観。

メンバーの機材に対するこだわりが、結果的にはバンド全体のイメージに繋がります。

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「見て見て〜 カッコいいでしょ〜 w」

話を戻して、

つまり余程のドMさんでない限り、誰でも軽いものを運ぶ方が楽に決まっています。

わざわざ重たいものを選ぶ、というのは何かしらの価値観を見出しており、それを取るためにリスクを負っています。

それが上記したようなものであったり。

結局どちらにしても第一には自分の都合になるのですが、結果的にそれで気分良く弾けるということは、オーディエンスへ良い音を届けることに繋がることになります。

「重くてもこれで弾きたいから何としてでも運ぶんじゃ!」

つまり、このようなキーボーディストとして「信念を持つ事」が大事なんですね。

そのように自覚出来るようになってくると、自分にとっての本当に必要な機材と鍵盤数が分かってくると思います。

あなたはなぜ88鍵盤を選択の候補に挙げているのでしょうか?

鍵盤数とタッチの関係

鍵盤の「タッチ」は大きく分けて2種類あります。

  • シンセタッチ (49、61、76)
  • ピアノタッチ (88)

他にも見た目はピアノタッチと同じ箱型鍵盤のセミウェイテッド、鍵盤自体が小さいミニ鍵盤など色々ありますが、基本的には、鍵盤数によって上記のようなタッチの鍵盤が採用されています。

一般的には、シンセサイザー音色、オルガン音色はシンセタッチが弾きやすく、ピアノ系の音色はピアノタッチが弾きやすいとされています (もちろん人によります)

で、それゆえにキーボーディストは自分の演奏スタイルや機材に対する考え方について、結論を出すまでに様々な悩みを抱えるんですね。

鍵盤数の違いによる「影響」を考える

まずは鍵盤数が違うことで、キーボーディストが影響する事を挙げてみましょう。

  • 鍵盤数によって重量が変わる事 (持ち運びに影響)
  • 鍵盤数によってタッチの重さが変わる (弾きやすさに影響)
  • 鍵盤数によって見た目が変わってくる (ビジュアルに影響)
  • 鍵盤数によって弾き方が変わる (表現力に影響)

何が自分にとっては外せない項目なのか・・・。

あなたの信念のもとに、優先させる項目を選定してほしいと思います。

音色とタッチの相性を考える

では先程お話した、

機能性による価値観」と「視覚的な価値観」である2つのうち、実用面における機能性について考えてみたいと思います。

結論から言うと、機能面で考えることは

各音色によるフレージングとタッチの相性を考えること」です。

キーボーディストがピアノタッチを候補に上げる上で考えなければならなことは大きく二つあります。

それは「何の音色を使うのか」という比率、その音色が曲に対して「どれくらいのテクニック (表現力) を要するのか」という事です。

もし88鍵盤を選択したいと考えているのであれば、ひとまずピアノタッチでピアノの音色を弾くことが大半の目的ですよね。

ではその他の音色を弾くのはどうでしょうか?

筆者から言わせてもらうと、ピアノタッチでシンセサイザーや、オルガンの音色を弾くのは正直あまり気持ちよくないのです。家で作曲する時にゆったり弾くのはまだ良いですが、さすがにライブやシビアな場面では話が違ってきます。

例えば、88鍵盤と言えどもメーカーや機種によって色々なタッチが存在します。

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Photo by Kawai

その中では、上の写真のようなピアノの木製鍵盤のようなフィーリングを追求したものもあれば、下の写真のシンセサイザーの音色を弾くことも想定された少し軽めのピアノタッチの鍵盤もあります。

前者でシンセ系の音色、またはオルガンの音色を弾くのは正直フィーリングとしては厳しいものがありますが、後者ではアコースティックピアノに近いようなフィーリングを犠牲にする代わりに、他の音色に対してもある程度まで万能に対応できるというメリットがあります。

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Photo by Kurzweil

筆者が個人的に最高のフィーリングを得たのは、上記の KURZWEIL というメーカーのKシリーズの鍵盤。重すぎず軽すぎず、シンセサイザーのピアノタッチとしては最高峰のオールラウンダーなフィーリングでした。

タッチと音色による悩み

話を戻して、

キーボーディストが弾く音色としては大体以下の通りで決まってくると思います。

  • オルガン
  • エレピ、ピアノ
  • シンセサイザー音色

キーボードの基本的な音色は大まかにはこの3つになってきます。

ですが、この中で重要なのは先程もお話した通り、音色のフレージングによるタッチの相性を考えることです。

先程の話と重複しますが、ピアノ音色をピアノタッチで弾くのは何の問題もないわけですが、他の音色も併用するとなると話が違ってくるのですね。

正確にはその頻度とフレージング、奏法、表現力です。

オルガン特有の奏法があるのに対して、重たいピアノタッチでそれを表現できるかと言えば厳しいのです。

例えば、まだ全音符でオルガンの音色をコード (和音) 弾きするだけなら、重たいピアノタッチでもまだ問題ないでしょう。

それがオルガン特有の奏法を駆使したテクニックが要求される場合、鍵盤弾きとしては「ここまで表現したい」というこだわりが出てきます。

それに伴って、この音色の表現をするにはこっちの鍵盤が良いが、ピアノ系はこっちの方がいい「あぁ〜やっぱキーボード一台だとどれかは我慢しなきゃ」となってきます。

逆に61鍵盤ないし、76鍵盤のキーボードでオルガンやシンセをメインに弾きつつも、たまに弾くピアノはそこまでピアノらしい表現は求められてないのでシンセタッチでもまぁいいか、という考えもあります。

それはあなたがプレイするバンドのジャンル、曲などによって違ってきます。

表現力を最大にする考え方

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Photo by Roland

先程の話の続きですが、テクニック思考のキーボーディストにとっては、鍵盤の機能と音色の相性は表現力において重要になってくるでしょう。

先程少し触れたオルガンの音色で考えてみると、

例えば、全音符でコードを弾くだけならピアノタッチでも十分可能だとは思いますが、

ジャズやロックオルガン的な奏法、アプローチ (グリッサンド、ゴースト、ワンノート連打など)

リアルタイム操作による音色変化のアプローチ (ボリュームペダル、ドローバーを使う表現など)

このような表現にもこだわる場合では、オルガン奏法の表現力に適したフィーリングの鍵盤タッチ、専用機ならでなインターフェースが求められます。

こちらはオルガニストの「河合大介」さんのデモになります、すばらしいですね。

ここまでくると少し極端かもしれませんが、このレベルの表現を追求したい場合はやはりオルガン専用機で弾く必要性があります。

重いピアノタッチで妥協して無理に弾いたとしても、特に見た目が専用機の表現力より劣りますのでオーディエンスに対しても中途半端にしか伝わらないかもしれません。

ピアノタッチでもゴーストノートやグリッサンドは可能ですが、弾いていて気持ちの良いものではありませんし、下手をすれば爪や指を痛める場合もあります。

また、弾き始めのタイム感などもシンセタッチとは異なりますので、その影響も一考する必要が出てくるでしょう。

こちらは Nord Stage シリーズのデモ動画で、内容的には88鍵盤のフルウェイテッドでの演奏です。こちらのデモンストレーターも素晴らしいのですが、テクニックを磨けば88鍵盤のピアノタッチでもここまでの表現が出来るのですね。

例えば、この Nord Stage はピアノ、オルガン、シンセの演奏に特化したインターフェースになっているので、リアルタイムでドローバーに近い (LED表示ですが) 表現までカバーが可能です。

シンセサイザー部分に関しても、ツマミやノブをいじれば設定したパラメータを変化させれますので、あとはピアノ、エレピ、オルガンの使用頻度を考えて「88鍵盤」か「73鍵盤 (ウォーターフォール鍵盤) 」を選択するのが良いと思います。

73と88では重さやタッチも変わってきますので、そこもポイントになってきますね。

88鍵盤という最大音域

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なぜ、88鍵盤は魅力的なのでしょうか?

メーカーラインナップ的に88鍵盤は必然的にピアノタッチになっているから、ということ以外で考えてみましょう。タッチについては先程散々語りましたので・・・。

大きくは主に2つで、とにかく「ビジュアル面でピアノらしさを醸し出せる」ことと、「最大音域の表現力を常にスタンバイ出来ること」という点です。

前者は言うまでもなく「オレはピアノ弾いてるんだぞ〜、ピアノ弾きだ〜」という、そう、例え88鍵盤など使わなくてもカンケー無い!(これ重要) とにかく見た目が大事! という価値観。

とにかく見た目、そしてピアノだという迫力です。

後者は冷静に、

低音域、高音域のわずかだけど、本当にこの音域が必要な場面が曲にある」という事情。細かい事ですが、ギタリストが24フレットか22フレットかでこだわるように、キーボーディストもあればあるで越したことはない、ということですね。

筆者の価値観

実際には「88鍵盤もいらない」んだけど、あるとなぜか安心するし、どうせなら合ったほうがいい、というなんとも投げやりな価値観。

しかし大は小を兼ねるという考えもあり、意外とこういう価値観で88鍵盤を選択してしまう人って多いんですね。かく言う筆者もその一人。

家でピアノの練習もしたい理由から、ライブで使わなくても自宅用に88鍵盤は絶対一つは欲しいと考えてました。ですがいくつも置けるスペースも無いので、88鍵盤を一台買って全てをカバーしたい、と考えてしまうんですね。

ここでは失敗した経験を元に色々な視点から書いているつもりですが、筆者も最初は何も分からず感覚と想像、そして見た目のカッコよさでキーボードを買ってました。

結果、苦労が耐えなかったという。

結局買ってから色々と気が付き、オークションなどでも売り買いを繰り返し二束三文になった時も何度もありました。また、やるバンド次第で機材選定の価値観を振り回されることもよくあることです。

次はブルーズバンドかぁ〜、だとやっぱオルガン欲しいな〜、もうこんな感覚です。

運搬面と実用面を冷静に吟味できるようになるのは、実際に運搬での苦労を味わってからでしたが、色々経験できたのは今では良かったと思っています。

とくに「自分を見て欲しい」という自我が強いうちは、機材欲も半端なく、88鍵盤を選択してしまうことも多いです。筆者の場合、クラシックピアノから鍵盤をスタートしたので、ハナから88鍵でしょ、という考えもありました。

このように人によってバックグラウンドが違います。

この記事も含めて筆者の考えは一人のキーボーディストとしての価値観として参照していただき、みなさんも自分の考えや価値に沿って自分の好きなキーボードを選択していただけたら幸いです。

「信念」を持つことの大切さ

活動を続けていけばいくほど、鍵盤を運ぶことの大変さをキーボーディストは本当に痛感すると思います。

鍵盤だけでなく、スタンドや周辺機器もありますからね。

人によっては先ほどのオルガンの例のように、複数のキーボードを使い分けたい場合もあるでしょう、筆者もそうでした。重くて苦労して運んで、そう言ったこだわりに気づいてくれるお客さんがいたら、やはり嬉しいものです。

逆にそこまでしてその違いに何も気づいてもらえない時には少し辛いかもしれません。わざわざオルガン専用機を導入したのに、普通のシンセサイザーのオルガン音色で十分じゃない? とかメンバーに言われたり (笑)

このように「この音で聴いてもらいたいから」「自分がそうしたいから」など、きちんと自分の意思 (キーボーディストとしての信念) を定めないと、自分の気持ちがどんどん曖昧になってきます。

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「わかるわかる、己のキーボーディストとしてのプライド、意思の話だよね?

どうせ分かる人はいないから軽くて最低限のことを弾けばいいや、という考えもあります。それが悪いことではありませんし、実際に重たいキーボードを運ぶのは自分です。

無理に運べばいずれ体や腰を痛めますし、キレイ事だけでは活動を継続できません。

しかし、いつ誰がどこであなたの演奏を見ているかは分かりませんので、自分の中での住み分けはした方が良いでしょう。

  • どんな音で鳴らしたくて
  • どんなタッチで弾きたくて
  • どんな姿を見せたくて
  • どんな表現力まで追求したいのか

これらのこだわりによって、あなたが選択するキーボードが変わってくるのです。そして最終的には、それがあなたの「プレイスタイル」と呼ばれるものになっていきます。

つまりは、きちんと自分の信念を持つことが大事なのです。

最後に

88鍵盤、ピアノタッチにこだわっていたキーボーディストの方、いかがでしたか?

前回の運搬のことも含めてまとめると、音楽、楽曲を作り込む時は自分が一番だと思う機材を使えば良いと思いますが、ライブで演奏するとなると、演奏面、移動、運搬、セッティング、など色々問題が出てきますね。

本記事では主に「演奏面での切り口から鍵盤のタッチについてお話ししましたが、もちろん正解はありませんし、すべてはあなたが何を優先するか次第です。

重要なのは「しっかりと考えてそれを選択しているのか」ということですね。

よくよく考えたらこっちのバンドでは色々な音色を使うし、バランス良く演奏したいから88鍵盤じゃなくてもいいかも? そんな考えもよくあることなんです。

筆者からの超個人的な要望としては、とにかくピアノ中心の演奏を全面に押し出すのであれば、ぜひ88鍵盤のピアノタッチで弾き倒してほしいと思います。

どう考えても、88鍵盤のピアノをライブで弾いている人は輝いていて、目立っているから。そこまでしてあのキーボード運んでんだよな、と本気度も伝わってきます☆

今一度これらを踏まえて、音楽を表現する、ということを起点に「ピアノタッチ」「88鍵盤」を選択するかどうかを一考してみてはいかがでしょうか?