先月発売されたばかりの「ゲーム音楽ディスクガイド」の感想をば。
いわゆるディスクガイドやカタログ本ってゲームとか電子音楽だとか、そういった切り口で色々あると思うのだが、ゲーム音楽に特化したガイド本ってあんまりなかったり (数冊ありますが)
で、今回買う決め手になったのは、ゲーム音楽やチップチューンに超詳しいhallyさんが監修だったからなのだ。
hallyさんが書いた「チップチューンのすべて」を以前買って読んでたので今回も期待して買ったものの、結論から言うと控えめに言って最高である。
中身のサンプルがないのでちょっと心配、雰囲気知りたいって人に参考になれば嬉しい。
目次
他のガイドと違う点
今でこそゲーム音楽は、1つのジャンルとして確立して人気になったものの、どうにも昔からゲーム音楽は「ゲームの音楽」という前提な捉えられ方をしていた。
まぁ当たり前と言えば当たり前だが、そこに始終してしまっている感もあるし、当初は今よりもゲーム音楽の知名度や評価が低かったのもある。
音楽性に対して深掘りもされなく、クロノ・トリガーの光田さんもレコーディング現場では奏者から良い印象を持たれない場面もあったと。
ゲーム音楽が昔から好きだったから普通に真面目に聴いてきたものの、やっぱり同世代でゲームが好き、くらいの友達と話してても「メロディがいいよね」くらいの部分で話が終わってしまう。
ちょっとみんなが知ってるマリオのメロディを弾いてウケを狙う、そんな感じ。
今ではゲーム音楽をピアノアレンジしたビデオゲームピアニスト、プロアマ含むオーケストラに代表するゲーム音楽演奏アーティストなど、彼らの積極的な演奏活動でゲーム音楽への見方はどんどん変わっていった。
何より、ゲーム音楽を聴いて楽器を始めた人たちがプロの演奏家になるくらい年月が経ったことで、もはや以前とは違い逆転現象が起きている。
話を戻して、
要は「音楽的視点での語り合いができない」と言うことが、アーティストのディスクとの違いだったりする。
ファミコンのPSG音楽の三和音の制約による苦労や工夫などは知られる由も無いし、
スーファミの8音制約によるミニマムサンプリングされたPCM音源にしても、常に生楽器と比べられての「あくまでゲームサウンド」な感じな扱いだったり。
当然、ゲーム音楽に詳しいものたちからすれば、それがどれだけすごいことを当時やっていたか、と言う話なのだが・・
ゲーム音楽はそのような、工夫とアイデア、制限の中から生まれた上で、さらにゲームにつける音楽、と言う特殊なポジションで作られてきたので、一般の音楽に比べて歴史は短いのかもしれないが、独自の発展を持ってるし深い。
ゲーム音楽は、紛れもなくそう言った昔からある様々な音楽を聴いて育ったコンポーザーたちが作った新たな境地だから。
今はちょっとパターン化してきたかもしれないが、当時は本当に違ったと思う。
本書にも書いてあるように、そう言った「音楽的視点の評価」を受けずに、ゲームファンからの「ゲームの曲、思い出、いいよね」的な感想で終わってしまっていた音楽たちを、もう一度音楽的観点で評価しようと試みたものが、このディスクガイド。
読んでると、まだまだ何度も他書で見たようなエピソード以上に知らない情報がたくさんあって、本当に読み応えがある。
シンセサイザーや楽器奏者、ゲームの制約、容量、発音数など、そのような作曲視点の制限や美学などを絡ませたレビューも多いので、これを読んでからもう一度サントラを聞き直したくなることは必死である。
ぜひ、ゲーム音楽が大好きな人にオススメしたい!
950枚のサントラから選抜
とりま、ハードのサウンドの方向性や品質の軸を決めた作品や、今や伝説級になってる革命を起こしたメジャーどころの作品は抑えられており、ゲームサントラだけでなく、アレンジアルバムも当然のように紹介されている。
携わった奏者の詳細も書かれてるので、その辺の敬愛も感じられてグッド。
何万とある数ある中から1000枚近くに絞ってるのだが、名盤中の名盤に関してはスペースを2枚分取っているのが嬉しい点。
個人的な感想だが、やはりミスティックアークが評価されてたのは本当に嬉しいし、レビュー内容も非常に共感が持てる。
ゴーストライター騒動で賑わせてくれた鬼武者の音楽も、ゴーストしたことが前提のレビューでこちらも面白い。
他にも、アクトレイザーやファイナルファンタジー4の音源争いから、クロノトリガーで木っ端微塵にぶち抜かれたエピソードなど、かなり鋭い部分まで書いてるのが嬉しい。
そうやって切磋琢磨してきたのが分かるレビューは見ていて興奮する。
なお、結構笑い路線に走ってるレビューもありで、個人的にはうまいこと書くなーとニヤニヤしながら読んでる。
繰り返し、控えめに言って最高のディスクガイド。
4人のライターの個性がハッキリしている
hallyさんを筆頭に、DJフクタケさん、糸田屯さん、井上尚昭さん
この4名で書かれてるのだが、レビューの住み分けが割とハッキリしていて読んでいて面白いし、メリハリがある。
糸田さんは王道に評価しつつ、井上さんはかなり変化球で笑わせてくれる。
hallyさんはハードの制約視点などから書いていて、4名ともに音楽に精通した上でのレビューがメイン。
さらに細かい面で言えば、オススメの曲や楽器のアプローチにまで書かれている時もあるので、知っている作品がそこまで書かれてると、ニヤニヤしてしまう。
終わりに
この本のナイスなのが「カバーが無いこと」で、これが非常に読みやすい。
カタログ本は資料的な感じなので、こんな感じがありがたい。
まだ全部読んでないものの、ゲーム音楽を知りたい一人としては非常に勉強になるし、素晴らしくまとめていただいたな、といった感じで非常に満足。
ゲーム音楽ファンはもちろん、音楽的な視点で書かれたレビューを読みたい人にオススメの一品なのだ。