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短い時間で曲を書くというのは、作曲方法においての一つの「コンセプト」だと思います。
自分が納得するまで曲への修正を続ける事もあれば、時間を決めて筆を置くという方法もあり、短時間で曲を書くというのはまさに後者の経験値を加速させることが可能です。
すなわち、「この曲はこの用途ならここさえしっかり押さえれば、他は大して時間をかける必要性は無い」という、曲作りに対してある程度の「割り切る視点」を持つことが可能となります。
つまり「いつまでも完成させれない」というリスクを考えたら、何かを削ったり割り切るなどというのは大した問題ではない、ということです。
私は自身の音楽素材サイト「音の園」にて「BGM素材」を無料で公開しておりますが、その総数は8月を持って「150曲」となりました。
その150曲の素材、全てに対して生み出した時の思い入れがありますが、その中でも「短期間で曲を量産した時のエピソード」を今日は書いてみたいと思います。
なお、本記事の曲に関しては歌ものではなく「BGM」に限定して話を進めます。
目次
はじめに
作曲を続けていると、曲を書く目的にもよりますが「次はどんな曲を書こうかな?」と考えたりします。
どんな曲を書こうか、これは作曲をする前に誰もが考える事です。
私は作曲にある程度慣れてくると、さらにもう一歩踏み込んで「次はどんな風に曲を書こう?」 と考える時期がありました。
それは、曲そのものに対する「生み出し方について考える」という発想です。
曲には色々な書き方や作り方があり、私はそれを『作曲方法のコンセプト』と呼んだりしています。作曲者にとって、曲自体にテーマを設けることは珍しくありませんが「生み出し方にフォーカスする」というのが本記事の狙いです。
どんな方法で生み出そう、色々とテーマはありそうですが、その一つに「短い時間でたくさん書く事に挑戦してみたい」そう思う時期がありました。というか今もですが (笑)
この方法は時間を短縮します。なので当然ですが、最初の頃はある程度のクオリティダウン (品質の低下) を避けられませんので、曲を聴く人にとっても少なからず弊害があります (聴者は短時間で作ったという情報を知らないので)
しかし続けていくうちに、今度は時間をある程度かけて曲を作るときにも、これらを踏まえて「最終的には時間を有効に使えるようになる」と思います。
ぜひ作曲に慣れてきた時に挑戦したい方法の一つです。
作曲者の立場として一貫して考えていきたいこと、それは「どこまで品質を維持した上で短時間で作れるか」という部分になります。
どのような曲を書くことになる?
短い時間で曲を書く、ということは、逆に考えると「どんな曲なら短い期間で生み出せそうか」という事です。
もう少し具体的に書いてみると
- 作曲において時間を短縮出来る部分はどこか (拘らない部分を決める)
- どういうタイプの曲調なら短いループ曲でも違和感が無いか (曲のタイプを決める)
- 音色数、トラック数はどれくらいでまとめれそうか (トラック数、音色を決める)
- これを踏まえて30秒〜1分のループ曲
このように、短時間で作曲するにあたって「出来そうな部分」と「できなさそうな部分」を考えていきます。つまり、「コスパが悪い作業はカット」していきます。
作曲者視点とユーザー視点
上記した「コスパが悪い作業についてはカット」というのは、あくまでも「完成させることを前提目標」とした、作曲者の都合、視点でしかありません。
また誤解を避けるために、コスパの悪い部分をカットするというのは決して「手を抜く」という意味ではなく、「完成を目標」に、作業工程にメリハリと割り切り視点を持つ、というのが目的です。
手を抜くのが嫌だ、ということであれば、その作品は早く曲を書くことを目的としていないのだと思います。なので早く書いたり作業工程をカットする必要もありません、時間をかけれるだけかけて、気になる部分はすべて納得がいくまで修正すべきです。
曲は何のために作るのかによって、重要視する部分が変わってくると思います。絵に当てるのであれば、どれだけ早く曲が書けても、またどれだけクオリティが高くても、絵に合わなければ使えません。
曲は BGM として作品を補佐する時もあれば、使われるシーンなどによっては曲がメインになる場面もあります。
したがって、それらも含めて作曲毎に「作曲方法を定める」ということだと思います。それを繰り返すうちに、状況に応じて対応できる自分の引き出しを少しずつ増やせるのではないかと思います。
曲の評価というのは聴く人によって全く違いますし、用途によっても変わってきます。
時間を短縮できる要素
時間を節約するということは、迷いを無くす、割り切る、決めておく、用意しておく、という事です。
テンプレートを用意する
絵を書く時に「今日は何書こっかなぁ〜」「どんな色にしよっかなぁ〜」と、筆、パレットと絵の具を毎回選んでいたら、それだけで時間が発生します。
この作業は確かに楽しく、音色から曲のイメージを組み立てる場合は非常に効果ですが、このように新しい曲調を生み出すとき以外は、かなり時間を消費します。
一番避けたいことは、音色を選んだり遊んでいるうちに時間が過ぎてしまい作曲出来なかった、というパターンです。
最初から作曲するつもりがないのであれば問題ありません。
こちらの記事でも触れていますが、テンプレートを決めておかないと音色の組み合わせは無限になります。
私のオススメは
「テンプレート+α」というトラックの考え方です。
一つの作品において、その世界観を決定付ける楽器の音色のテーマ、コンセプトが決まったら、土台の音色はそれらで固めて (決めて) おき、曲毎によって1つか2つ、違う音色を足す、という考え方です。
そうすると、テンプレートで時間を削れる上に一つの作品で使われる BGM に統一感を出せます。また「+αの音色」によって曲に色も出せます。
何の音を足すかを悩む時間は発生しますが、一から全てのトラックに対して何の音色を使おうかと考えることと比べたら差は圧倒的だと思います。
音楽の三大要素を見直す
出来れば、同じテンプレートでも音楽の三大要素「メロディ」「ハーモニー」「リズム」を駆使して違う曲調を目指せることが目標です。
これは音色に頼らない、という方法ですが、テンプレートを用意する、というのは定番楽器の組み合わせの多いオーケストラや、バンドスタイル、電子音楽などのジャンルに限られるようなイメージがあるかもしれません。
いわゆる、DAW でデフォルトで設定されているテンプレートのことです。
ですが例えば、「ピアノ」「ストリングス」「サックス」だけで5曲作ってみるとか、「琴」「笛」「太鼓」「すりがね」などの和楽器だけで、時間を決めて5曲作ってみるとかでも全然良いわけです。自分の引き出しの幅を確認出来ると思います。
音色の組み合わせを増やさないと同じような曲しか作れないなら、メロディやハーモニー、リズムの引き出し自体が足りていないなど、自分の弱点が見えてきます。
はい、私は弱点見えまくりでした。
少し誤解がないように、「音色に頼らない」というのは「音源に拘らない」という意味ではありません。コンセプト別に質の異なる音源を、テンプレートとして用意しておけるのがベストだと思います。
曲を量産して得られるメリット
このように、短い時間でたくさん曲を生み出すことを経験すると色々とメリットがあります。私が現段階で感じていることを書いてみたいと思います。
自信が付く
やはりまずは「自信が付く」ということでしょうか?
たくさん作るというのは、単純に「これだけの曲数を作った」と振り返れます。根拠の無い自信であったりしますが、では5曲書いた人と、100曲書いた人とではどちらが自信を持てそうか、と言われれば私は後者であると思います。
しかし200曲と300曲となると、そこから先は数だけではなく質、どれほどの時間で生み出したかなど、そういった付加価値も重要になってくると思っています。
作曲に慣れる
正直なところ、この「慣れる」というのが一番大きな収穫であったと思っています。
私はどんな分野でも究極は「慣れ」だと思っています。
私はまず、作曲を出来る日をなるべく増やすことが目標でした。
小さな慣れを積み重ねることにより、ようやく最近になって重い腰を上げることなく作曲に向かえれるようになってきました。
慣れないと DAW を起動させることさえもなかなか難しいです。
また、「慣れ」という言葉はちょっと不思議な言葉で、「難しい」という言葉よりも遥かに楽観的で、ポジティブ、生産性の高い言葉だと思っています。
どんな分野にでも普通に使われる言葉ですが、こういった音楽、絵のようなクリエイティブな作業に対して用いると、印象がグッと変わり、ちょっと気持ちが楽になります。
慣れ、ということは、続ければ嫌でもいつか出来るようになるっていうことです。それらを段階的に踏まえて向上心を持てば、ゆっくりでも確実にスキルアップは可能です。
私は最初の頃、一曲作るたびにそこそこ満足してしまい、その同じ曲を何回も聴いて自己満足に浸っていました。とにかく曲作るのが遅い!って感じでした。
最近ではもっとたくさん曲を書きたいなんて思いに駆られています。
ここまで来ると、ようやく作るのが面白くなってきます。
瞬発力
時間を決めてやる、というのは嫌でも「瞬発力に影響してくる」ので本来持っているパフォーマンスを発揮しやすいと思います。
どんな目的で音楽、作曲に取り組んでいるかは人によって違いますので一概には言えませんが、曲を早く書く、というのは一つの魅力だと私は思います。
一つ注意したいのが、曲に対して何か言われた時に「短い時間で作ったことを言い訳にするのは本末転倒」になってしまいます。
どんな時間で生み出された曲でも、使える曲は使える、使えない曲は使えない。
あくまで自分のスキル、幅を広げるために活用したいものです。
人の意見にあまり左右されなくなる
一曲を一生懸命時間をかけて書いて、それを誰かに聴かせたところで自分が費やした時間、こだわった部分に対しても思うような反応が得られない時があります。
それが批評なのか、共感してもらえないのかは分かりません。
例えばこのブログでも何回か書いてきた事ですが、1日〜3日かけて作った曲が「ふ〜ん、なるほど〜」みたいな感想であったのに対し、3時間程度で作った曲が「お、これいいね」となることが良くあります。
短い時間でたくさん曲を書くと、一曲に対してかけたコストが平均化されますので、自分視点でも一曲一曲に対しての他人の評価を冷静に受け入れやすいです。つまり何か言われても精神的にちょっと強くなる、ということですね (笑)
同時間で作ったのなら、ダメとかいいね、とか言われてもいちいちその言葉に左右されにくくなります。短い時間で作ったものが、いいね、といわれたら、そんなに時間かけてないけどそういってもらえると嬉しいな、という感じに。
私は、3日とかかけてイマイチと言われると、精神的にきつかったり、逆に3日もかけたんだから良いね、と言われてもまぁ3日もかけたしな、となったりしてました。 (これは人にもよると思いますが)
時間をかけてもかけなくても曲の良し悪し、評価は関係ありません。
それが分かってからは、曲の使用目的によって時間をかけるべき部分はどこなんだ、と考えるようになると思います。
最後に
どんな分野にも言えることだとは思いますが、たくさん書く、たくさん作る、たくさん練習する、というのは最初の頃には必要だと思います。
いわゆる「我武者羅にやる時期」というやつで、とにかく「慣れ」に繋がります。
しかしそういった「とにかく闇雲にでも数をこなす時期」を一通り乗り越えたら、次は「効果が高い方法を狙っていく」ということが重要だと思います。
効率性、効果的かどうか、意識しているかどうか、決めてやっているか、などで同じ時間を使っても結果は違ってきます。
音楽制作に関しては多様なものの捉え方がありますので、短い時間で書くことが良い、悪いという単純な話ではありません。当然ながら「相当な時間をかけて一曲を作りこむ」というのも絶対に必要な経験です。
今回は完成させることを重点に、私の経験からたくさん曲を書いて良かったことを書いてみました。
というわけで、短い時間で数をとにかく熟す、ということは様々なメリットがありますので、ぜひ慣れてきたら一度挑戦してみてください。人によっては、私とは違ったメリットを感じられるかもしれません。
重要なのは「準備/決め事」と「集中力」だと思います。
色々決めて取り組むと、自分のやり方を見つめ直せる上に引き出しや瞬発力が鍛えられて様々な効果が期待できます。
スキルアップにより、短い時間でより良い物を作れるようになりたいですね。