鍵盤が軽いと弾きやすくなる反面、やはり弾きにくいフレーズなども出てきます。具体的には速いフレーズだったり、複雑な運指、音程をまたぐ場合など。
それから、軽いが故についつい早弾きしてしまうことによるミスタッチもありますね、私もついつい即興でフレーズを考えたりしている時にこのパターンになりやすいですw
さて、タイトルのお題ですが、そこそこ重たい鍵盤が「ピアノタッチの標準」となっている人は多いと思います。
私が思うに、それはクラシックピアノからピアノを始めた方や、ピアノの鍵盤は重たくてこういうものだ、という概念を持っている人です。
実際にアコースティックピアノは、シンセサイザーの鍵盤やファミリーキーボードなどに比べて重たいわけですから、それは当然です。
で、この概念でシンセサイザーなどの軽いタッチを弾くとミスタッチを連発してしまいます。なぜでしょうか?
もちろん、ただ単に軽いから弾きにくい、慣れてないから、は当然あります。
ではもう一歩踏み込んで、
「なるほど、では慣れてない、軽いからと言ってなぜミスタッチをしてしまうのか」
これを考えてみます。
ライトウェイト鍵盤による弊害
実際、私も色々なシンセタッチを弾いてきましたが、最近 KRONOS LS というピアノの箱型でシンセのようなライトタッチの88keyシンセサイザーを購入しました。
今まで、Roland の RD-700NX を標準としていたので、重さはもちろん、タッチの感度など圧倒的に違います。
ベロシティ (強弱感知) も当然 RD の方がレンジが広いです。
この一ヶ月で MIDI を使い、鍵盤違いで色々な音色を弾いて実験していました。
結論から言うと、ミスタッチの原因は鍵盤が軽すぎて狙った鍵盤に当たると同時に隣りの鍵盤にも触れてしまうからです。
では、なぜそのようなことが起こってしまうのか?
それは逆で考えてみると良いです。
では、なぜ重たいピアノタッチならミスタッチ (あくまでこのような種類の) が発生しにくいのでしょうか?
それは、重たいから、例え少し触れても鍵盤が沈まないので音が鳴らないためです。
これは一見、当たり前のようなことなのですが、実はミスタッチを連発する、と言うのは普段から「鍵盤を正確に狙っていない」ことが考えられます。
事実、私自身はそうでした。
ピアノタッチで弾いてる時は普通に弾いてる感じなんですけどね〜…
軽いタッチは少し当たるだけでも音が鳴ってしまうので、重たいピアノタッチ以上にタッチに対する意識を上げる必要があります。
鍵盤へのターゲッティング意識
普通のピアノを弾くような意識レベルではミスタッチがなかったのに、軽くなった途端、意図しない鍵盤に触れてしまうと言うのは、一音、一音に対するターゲッティングが甘い、と言うことです。
もちろんどんなフレーズか、またはテンポかにもよりますし、難しい曲なら根本的に無理な場合も考えられます。
8分音符で伴奏のように弾くだけならまだしも、普通に速いフレーズなどを弾こうものならミスタッチは発生しやすいです。
即興演奏ならなおさらですね。
これを防ぐには、絶対に正確に当てに行く、と言う意識が必要になります。
ここまで意識してもミスタッチは発生しやすいので、意識していなければ相当ミスタッチしてしまいます。
もちろん、軽いタッチなので、オルガンのゴーストや、グリッサンドなど、弾きやすくなるメリットも多いですね。
ベロシティの話
では、少しデジタルな観点で「弾きやすさ、表現力」について考えてみます。
基本的には、電子ピアノにはタッチレスポンス、と言う概念があり、強弱の表現に影響を与えています。
強く弾くと大きく、弱く弾くと小さく音が鳴る、と言うルールです。
ベロシティ、とも言いますね。
で、この感度を変えるのが「ベロシティカーブ」と言う機能です。
これはデジタルシンセサイザーなどにある機能で、デフォルトではだいたい「4」になっています。だいたい1〜8、9段階あります。
KRONOS LS を例にすると、初期設定では4です。
LS鍵盤なので、タッチは非常に軽いです。
で、このタッチで4の設定だと、例えばピアノ系の音色は軽いタッチでもかなり強い音 (ベロシティ感知) が出ます。
1〜127あるとして、普段の50%くらいの力 (タッチ) でも、127の音が鳴ってしまいます。
そのままピアノタッチ時のフォルテシモで弾けば、必要以上の力を鍵盤に与えてしまいます。
これがミスタッチに繋がったり、弾く鍵盤ごとにベロシティを意識できなくなる原因に繋がります。
50の力でも100鳴るのに、100の力で100を鳴らすようなものです。
また、例えばベロシティ64と、ベロシティ127とでは音の鳴るサンプルが違いますので、ただ単に音量が大きく小さく変わる、と言う単純な話ではありません。
音色が違う、と言う話になります。
で、このベロシティカーブを例えば、3に変えると、同じ強さで弾いても4の時と音色と音量が変化します。
例えば、4では64のサンプルが鳴っていたのが、3では、47くらいのが鳴る、みたいな感じです。
1にすると、どれだけ力を入れて弾いても127のベロシティにならないなど、色々試してみると面白いです。
ベロシティカーブを使い分ける
では、なぜこんな機能があるのかと言うと、先ほどと少し重複しますが、やはり鍵盤のタッチが機種ごとに違うのですね。
このベロシティ感度も機種で変わる上に、人の技術によっても弾きやすいさ、表現のしやすさは変化します。
88key、61key、BH、RH、セミウェイテッド、フルウェイテッド、メーカー、鍵盤、音源の設定など、様々です。
よく電子ピアノは弾けるけど、アコースティックピアノが鳴らない、うまく弾けない、と言う言葉がありますが、生ピアノはデジタルと比べて違うので、電子ピアノしか弾いてない場合は弾きにくいのは当然です。
弾ける人、と言う言い方は良くありませんが、うまく鳴らせる人、と言うのは生ピアノの特徴やうまく鳴る弾き方を知っていたり、コツが分かっている人です。
単純に、経験があっての慣れや技術もあると思います。
確かにプロならどんな鍵盤でもタッチでも一定以上に弾けなければならないとは思いますが、プロアマ関係なく、音楽制作はもちろん、自分の機材を自分用にカスタマイズできるのであれば、それができる方が良いと思います。
例えば、ピアノ経験がなかったり指のタッチが弱いのであれば、ライトタッチのシンセ、鍵盤を買えばいいだけの話です。
逆にタッチが弱いけど質感にこだわりたい、だから重たい鍵盤がいい。
けど、やはりタッチが弱くて強音が鳴りにくいなら、ベロシティカーブを5とかにして弾けば良いのです。
それが、機材を操る、と言うことだと思います。
タッチレスポンス、ベロシティカーブ名称は、機種によってはライト、スーパーライト、ミディアム、ハード、スーパーハード、ピアノタッチ、オフ、など色々あります。
うまく弾けなければ練習しかない、と言うのはどの楽器に関しても当たり前なことですが、それでは話はそれで終わってしまいます。
音楽制作も同じですが、今はできなくても工夫すればできるようになる、または作られている、そんな製品ばかりなので、技術だけでなくデジタルの知識で差をつけるのもアリなんだなぁと感じます。
私は作曲を始めるまでは、このようなことを意識したことがありませんでした。
ピアノから始めたので、そういったことは全て「感覚」で処理していたのです。
ただ弾きにくい、とか、慣れてないから、とか、61keyは軽いタッチでも強い音が出やすいけど、そう言うもんなんだな、とかそういった感覚ですね。
最後に
どのようにして、各製品がそのような意図で作られているのか、それが分かると、やはりものつくりというのは技術だけでなく、アイデアと工夫なんだな、と感じます。
もちろん感覚で処理することも大事ですが、タッチにしても、自分でミスタッチの原因を追求したり、なぜ弾きにくいと感じるのか、などを深く考えてみたりすると、自分の弾き方の意識や機材の設定、製品の見方が変わるかもしれません。