Photo by https://www.jukedeck.com/
自動作曲のウェブサービス「jukedeck」が昨年登場しました。
必要事項を入力すると簡単にランダムで曲を生成してくれるので記事を書いた当初は驚いたものです。
その記事がこちら。
Jukedeck で生成した曲の試聴も出来ます。
自動で曲を生成することが可能になることで、サウンドクリエイターの需要に影響が出るという意見もありますね。
今日は「曲の需要」と「自動化の可能性」について考えてみたいと思います。
目次
曲の需要
曲の需要は聴く人の数だけ存在するとは思いますが、聴くには時間を消費しますので、その点で考えると「聴きたいかどうか」が重要になってきます。
もちろん「流しておきたい」くらいで音楽を鳴らしたい場合もありますし、個人的な用途に限っては自由に聴くことが出来ます。
それに対し、個人的な用途外で「何かに使う」という点で考えると、「自由に使えるかどうか (著作権)」「品質は許容範囲内か」だけです。
品質は、無料で自由に使える代わりに「妥協点を設定する」ことでクリアしていきますが、ランダム生成なので、特に品質は最初から「仕方がないもの」として認識されがちです。
だから逆に思ったより少しでも良ければ「いいじゃん」となるかもしれません。
Photo by てつ
今では音源を CD なりダウンロードなりで買わなければ聴けない、という時代ではありませんのでこれについても曲の価値は一昔前から色々と議論されていますね。
映画や本などと同じで、月額制のサービスになりつつあります。
最近では「Spotify」が話題になっていますが、品質と広告の有無、オフラインでも聴けるかどうかが有料との違いになっています。
https://www.spotify.com/jp/invite/
今後も聴ける曲は増えていくと思われますが、消費できるかどうかを考えていくと時間が必要になるので、聴きたいか、流したいか、発見したいのか、など用途によって違ってきます。
聴きたいから聴く、という聴き方をする人はすでに自分の好きな曲を聴きますので可能性的に見れば少し閉鎖的ですが、実は私もこのタイプです。
成長がないのかもしれませんが、良い曲で好きだから同じ曲を何度も聴いてしまう、というのはある意味一つの境地でしょう。
Spotify は、新しい音楽に触れたい、見つけたい、という人には良いかもしれません。
音楽素材の需要
YOUTUBE やニコニコ動画など、自作動画の BGM として曲を流したり、ゲームやラジオ、舞台などで使いたいなど BGM の需要は広がっています。
これは、ネットやIT技術の進化によって誰でもコンテンツを手軽に発信出来るようになったことが大きいですね。
オフラインから、オンラインへと自分を表現したい人たちが増え続けています。
それに伴って、音楽素材の需要はプロの世界だけのものでは無くなってきています。
音に持たせれる要素
ボイスドラマや朗読サービスなどで声優の需要は広がっていますが、BGM と違い「セリフ」が存在しますので、なかなか自動化は難しいのです。
それは、言葉を打ち込んで発声させたとしても「意図した感情表現」を纏わせるにはまだまだ作り手の力が必要です。
いくら色々な声色が選択できて好きなセリフを生成出来たとしても、棒読みのセリフではせっかくのコンテンツを潰しかねないでしょう。
ゲーム実況などは、ボーカロイドなどを使用した棒読み実況が逆にシュールでハマっているという点もあり、そのように発展した日本の文化にも注目したいですね。
様々な作品に声が宛行われるようになっていきますが、ユーザーのイメージとマッチングしなければ作品への没入感を損なう可能性があり、声優選定は非常にシビアなものとなっています。
「合ってない声で、こんな演技力なら入れない方がまだマシ」
「想像で補完したいから声はいらない」
「テキストとグラフィックと BGM だけで十分」
ユーザーの評価は容赦なく厳しいものとなっています。
このように最低限でも、演技力、そしてマッチングが求められています。
RPG のお店で村人の男性の元気な声が、
「いらっしゃいませ」
という定型文で、毎回買い物時に同じ調子で流れるのとはワケが違うのですね。
曲に感情を乗せることについて
曲に感情を乗せる要素としては、歌であれば「声」「歌詞」ライブならパフォーマンス、直接的な演技力もあると思いますが、感情表現とは一体なんでしょうか?
- 音の強さ
- 音の高さ
- 音の長さ
- 音の大きさ
- 音の変化
- 音そのもの (音色)
- リズム
これらを別の表現で例えたものが、「カッコイイ」「色気がある」「かわいらしい」など、言葉として抽象的かつ具体的なイメージになっていくのかもしれません。
これは歌も楽器も同じです。
現状では自動作曲は楽器だけによるインストなので、シンセサイザーなどの合成音色も含めて楽器の音色が中心になってきますが、それらが聴き手に対し「どれほどの表現力」を求められるのでしょうか?
聴き手の中には別段音楽をやっていなくても「聴く耳」をしっかりと持っていますので、この曲は「ここがいい」「この部分がこうだから良い」という風に、音に対して「良いと思える何か」を見出します。
例え言語化できなくても、体感では曲に何らかの感情表現を感じているのではないでしょうか?
自動作曲で生成してみて
曲にはそれぞれ求められる用途によって異なる需要があるので、必ずしも感情表現が必要なわけではありませんが、自動作曲でも感情表現は必ず入っています。
ただ「小さいか大きいか」それだけの話だと思います。
いくつかの曲を自動生成をしてみましたが、どのパターンも感情表現は緩やかで抑えられていると思います。
やはり用途は BGM としているからでしょうか。
いきなり音が大きくなったりすれば不快でしかありませんが、あまりそんな感じはなく最後まで聴けるモノにはなっています。
ただ個人的に、まだ聴けるというよりは「流しておけるもの」という印象です。
聴いていてフレーズや音量変化など不自然である部分は多いですし「自動で作られた」というイメージを持って聴く以上は、そのような先入観は避けられないでしょう。
「BGM として主張せず、音がとにかく流れていれば問題ない」
そういう意図で作られているかは不明ですが、今はまだそれで良いと思います。
ランダムなコード生成、曲の流れ (キー)、音量バランスさえ問題なく、使いどころさえ定めたら・・・これで無料で自動生成なら十分な品質だと思います。
jukedeck は今も複数のプランがありますが、おそらく他のサービス同様、無料と有料で月に生成出来る曲数や使用範囲などが違ってきますね。
作り手を意識することへの価値観
人は「自動化」ということに対してどのような「価値観」を感じるのでしょうか?
深いしキリが無い話です。
実際にその利便性は、作った人、携わった人しか分からないもので、それはどの分野についても言えることだと思います。
私たちの周りに溢れている食べ物や生活用品も、いくつかは自動化されて生成されていると思います。ですが、実際にそれらを手に取る時に、どれだけ作り手の顔を思い浮かべるでしょうか?
何も考えず加工された肉や野菜、魚を手に取るでしょうか?
スーパーで BGM が鳴っていても、それが当たり前で誰が作っているかとか気にしたりしますか?
「自動」という点においては、どれだけ作り手が作品の生成に手を染めることが出来るのか、という点が今後気になります。
無くなりはしないでしょうが、曲そのものではなく、誰が作ったのか、という点を今後無視すれば、感情のない世界へと足を踏み入れる気がしてならないのです。
自動に対して「温度を感じられない」のは、作り手の姿がイメージできないからかもしれません。私は曲を自動生成して、そう思いました。
感想としては曲がいい、というより「すごい技術だな」という感想でした。
人間はコンピューターを使って曲を作りますので、ある程度は自動化していますし、今後もさらにその過程は増えていくでしょう。
便利なんです。
人は自動化によって時間を確保し、その時間をさらに別の価値へと昇華していきます。
自動化とは結局「効率化」「早くものを形にするために必要な要素」です。
大量生産ですね。
そこには無機質なものしか存在しませんが、人の手を加えることによって温度を纏います。
人が「人の手による価値観」を失わない限り、いかに共存させていくか、結局これに行き着くのだと思います。
自動作曲の強み
実際に曲を作っている者としては、今後はどのような曲を作れることが重要になってくるのか、という部分に着目したいですね。
恐らく、自動作曲の強みは品質よりも「スピードと量産」になってきます。
ただ早く使いたい、何でもいい、どこにもまだ流れていない曲がいい、それなら jukedeck は一番になっていくかもしれません。
生成されたものが好きかどうかは別として。
しかし、音楽や曲はその細かい部分が違うことで差別化を図ります。
そういった「価値観」はどのように変化していくのでしょうか?
最後に
人はお金と時間を天秤にかけ、用途によって利便性を追求していきますので、今後の jukedeck の発展次第では、作曲家だけでなく様々なクリエイターにも少なからず影響を与えるでしょう。
やはりサウンドクリエイター、作曲家が作ったモノの方が良い、と改めてその価値観を認識するのか、やはり自動作曲の方が便利だ、と思うのか。
それは利用する人や使い方によって様々です。
専門家たちの研究によって、メロディやコード生成のアルゴリズムは今も進化していると思いますので、ランダマイズの進化によって「より曲らしい自然な曲」が今後は生成出来るようになるかもしれませんね。
いずれにしても jukedeck は、世の中に何かしらの影響を与える存在になっていくでしょう。