https://www.4gamer.net/games/116/G011621/20100910070/
今回はシミュレーションRPGなどで流れていそうな『ユニット編成画面』のテーマを作曲してみたいと思います。画像はご存知「タクティクスオウガ」というゲームの編成画面ですが、この画像にマッチングするように目指します。
はじめに
ゲームの曲を作る時に実際に曲を使うゲームの画像があればもちろん一番嬉しいのですが、なかなかフリーで作曲していると画像検索をして参考にする程度しかできないことも多いです。そのため画像から元のゲームや架空のゲームなどをイメージして作曲することも少なくありません。
その時に難しいのが「画面の雰囲気に合っているか」を客観視することではないでしょうか? そのゲームの世界観はもちろん、質感、匂い、雰囲気、色、など色々なものがあると思います。登場人物のセリフなど一つにしても雰囲気が存在しますね。
それとは別に「どんな効果音が鳴っているか」なども想像するとサウンドがより具体的になるかもしれません。効果音も雰囲気の一つなのですごく重要になります。
なるべくそれらに合うような「音色」「フレージング」を考えていきたいものです。
テーマを決める
ユニット編成のテーマを作りたいと思って上記の参考画像を検索しましたが、画像から「中世、騎士、剣、甲冑、戦争、オーケストラ調」こんなキーワードが思い浮かびました。
ひとまずこれらを総合して「金属的な雰囲気」を目指してみようと思います。
金属的な音色は
- 金管楽器 (ブラス)
- 鐘 (チャイム)
- 小太鼓 (スネア)
- シンバル
こんなところでしょうか?
オーケストラ調を加味すると「ストリングス (弦楽)」も当然入れたいところです。
次に、画面の内容を考えてみます。
ユニットを編成している画面で流れるようにしたいのですが、プレイヤーの気持ちを高ぶらせてくれるような出撃前の緊張感、あとゲーム特有の編成画面 (異空間) が存在します。
このようにとりあえず出したい雰囲気をあげてみます。
- 出撃前の緊張感
- ユニット編成画面という場所ではなく「空間=メニュー画面」が存在する
- 時間が無機質に流れている
- 広い場所のようなイメージがある
- プレイヤーの気持ちを高ぶらせつつも冷静にさせたい
参考画像を元にするからには、どうしてもそのゲームの世界観や原曲なども存在します。それと比べると元も子もありませんが、なるべく自分のイメージを大きく持ちましょう。
まずは完成バージョンを試聴
Player Unit
構成はシンプルで難しいことは何もやっていません。
リフから曲を構成してみよう
今回最初に思い浮かんだのはメロディではなく「リフ」でした。
リフとは音楽用語で言うと「リフレイン」のことで、メロディの背後に流れているフレーズ (バッキング) になります。
リフレインは「繰り返す」という意味を持ち、その名の通りそのリフが繰り返されることによって、メロディとは別の位置で曲が形成されていきます。
その為リフは曲を構成する重要度としては、メロディと同等レベルになることも少なくありません。ロックやポップスなどでも「このギターのリフはあの曲だ!」といった具合に、キャッチーであればイントロなどで視聴者の心を鷲掴みに出来るでしょう。
テーマリフ (Piano)
まずはピアノを弾いているとこのようなリフが思い浮かびました。歯切れよく弾いているのでちょっと間抜けな感じがしますが・・・
キーは「Am」で、「Am→D/A」のコードを繰り返すようなイメージで手探りしていたところ
Am→D/A→C/A→D/A→Am→G/A→F/A→G/A
このコードの流れが出来上がりました。
同じリフの転調を繰り返す
リフは出来たものの、この段階では曲に時間的変化が感じられません。まだ曲に展開が無いからそう感じるのでしょう。
ユニットを選択している傍ら時間は過ぎていきますが、それを「転調を繰り返す」ことで演出しようと考えました。この時に、違うリフやリズムを変えたセクションを追加することも考えましたが、そのような曲展開は画面内容が大きく変化しないユニット編成画面のような内容には合わないと感じ、同じリフを軸にしていこうと考えます。
(もちろん私が勝手にそう決めただけであり、そうでないものを求められたらそれに応じますw)
ここで「何のキーへ転調すれば良いのか?」は悩みます。答えも正解もありません。
とりあえずいくつか候補がありましたが、どれでもいけそうな感じはするものの、ループさせるために、やがては元のキーである「Am」へ戻ってこなければなりません。
それを考えるとキーは
Am→Gm→A♭m→Cm→Gm→A♭m→ループ
このように転調を繰り返すことになります。
テーマリフ (Pianoで転調)
リフの内容はそのまま何も変えていませんが、完成バージョンを聴いた方は、もうこれだけで曲が5割出来たようなものだと感じると思います。
その通りです。リフさえ決まればこっちのものです。
ボイシングを決める
リフが出来て曲の雰囲気がイメージ通りに近づきましたが、オーケストラ調を目指すとなると、このリフはフレージング的にストリングスが適正だと思います。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、などと言った単体の弦楽器ではなく、コードで作ったフレーズなので「ストリングス」を使います。
コードを弾くときには「ボイシング」という和音の積み重ねを決定する要素があります。
ボイシングのパターン
左のように音が密集しているのが「クローズドボイシング」、真ん中や右側のように広がりがあるのが「オープンボイシング」で、オーケストラは各楽器の担当音域を考えていくと自然とオープンになることが多いです。
このようにコードには「どう聴かせたいか」でボイシングを選択する必要が出てきます。狙った響きを追求していくと曲調やアンサンブル、他の楽器の音域によってそれぞれ適正な選択があるようですが、今回はクローズドでいきます。
重厚な雰囲気を出したかったので音が密集していないと散らばってしまうことと、音を伸ばさないフレーズのため、クローズ寄りの方が自分の狙った響き (雰囲気) が出せたからです。
EAST WEST の「QLSO GOLD」というオーケストラ総合音源を使用しています。サンプルは「70 Piece Str Marc PR 」という音色。リフを強調したいので、なるべく立ち上がりの速いマルカートのサンプルを選択します。リバーブは後で掛けるため切っておきます。
ストリングスに変えただけですが、曲の雰囲気がピアノ音色から大きく飛躍しました。これだけでイメージがさらに広がります。
リバーブはOFFにした状態ですが「QLSO GOLD」の特性上、最初からある程度リバーブがか掛かっています。これはこの製品の唯一の欠点ですが、他の音源と比べるとコストパフォーマンスは最高で殆どのユーザーはこの「GOLD」を選択しています。リバーブはオケに馴染ませるか、最終的にリバーブが必要になる曲にこの音源を使うなど工夫次第で値段分の働きはしてくれます。
(最初のオーケストラ総合音源の導入にオススメしたかったのですが、どうやらコスパの良い「GOLD Edition」は廃盤になってしまったようです...)
スネアを打ち込む
ストリングスで何となく雰囲気が出来上がりましたが、その音色の特性上、この曲の速さでは「16分音符が限界」です。実は「連符」で弾きたかったのですが、音の立ち上がりを考えると無謀です。
そこで「スネア」の登場です。
元々スネアはオーケストラ調の曲にしようと考えていた段階から使用すると決めていましたが、音の粒立ちがしっかりしているスネアの長所を活かして、立ち上がりに少し弱点のあるストリングスをサポートするようなリズムパターンを考えていきます。
まずは、こちらがストリングスのリフです。8分と16分音符で構成されていますが、キレが足りません。リバーブも相まって余計にゴワンゴワンな感じです。
ストリングス-リフ-
そこで、ストリングスのリフに合わせた以下の譜面のようなスネアを追加します。
スネア -ストリングスと同パターン-
テーマリフ -スネア連符なし-
ストリングス単体の時と比べるとサウンドは確かに引き締まりましたが、スピード感に乏しく少し間抜けな雰囲気が漂っています。
そこで、スネアだけ「連符」を使います。
スネア -16分3連符あり-
するとどうでしょう、ストリングスも「連符」で「ダダダダ」っと弾いているように錯覚しませんか?
テーマリフ -スネア連符あり-
このように、楽器の長所を上手く用いて弱点を補ってあげるのも一つの手だと思います。特にストリングスは細かい刻みに関しては曲の速さなどによっては限界がありますので、スピード感を出したい時には是非活用してみてください。
メロディを乗せる
ここまで基本的なリフとリズムが完成すれば、あとは「メロディ」です。
メロディは曲によって色々な作り方、聴かせ方があると思いますが、 今回は「ホルン」を使うと決めていました。このホルン音色は私がオーケストラの楽器の中で特に好きな音色で、強く吹いた時の力強い響きは一番オーケストラらしさを演出してくれる響きだと思っています。
さらにサウンドを引き締めていく
ホルンのメロディを筆頭に、鐘 (チャイム) 、トランペットなどでリズムを補強しながらこれらをメロディの一部に聴こえるように両対応させます。
サウンド的にはこんな感じです。
メロディ -French Horn-
鐘はなるべくストリングスとホルンのメロディに合わせ、表の拍を中心に音を置いていきます。この曲だとなるべく表に置いたほうが響くため、リズムを大きく表現出来るのでサウンドが広がるように感じます。
トランペットはループ前のセクションで高揚感を高めるような終わり感を演出したかった為、フレーズエンドはクレッシェンドで「sfz (スフォルツァンド)」を目指してスネアのロールのようなリズム感を出します。
これはハマると気持ちが良いので是非積極的に狙っていきたいフレージングです。
Player Unit -完成-
DAW 画面はこんな感じで、今回は転調部分だけカラー別にマーキングしてあります。
画像とマッチしているかは人それぞれ思うところがあるかと思いますが、タクティクスオウガを全く知らない人に聴かせてみてサウンドがそれっぽいか感想を聞いてみたいものですね・・・。
実在するゲーム画面に合わせて曲を作るのは無謀ですが、良い訓練になると思います。
最後に
というわけで今回は、ユニット編成をテーマにしたアレンジと作曲法でした。
特に「展開感を抑えつつも時間が流れている雰囲気を出す」ことを中心に、後は好きなように作曲しました。
ユニット編成画面って異空間ですよね、特にゲームだと城とか場所ではなく「メニュー画面」のようなデータっぽい場面で流れる曲です。でもシンボルのような背景はあるんです。
無機質ながらも、空間を広げすぎずジワジワと来る迫力のあるサウンド作りを目指してみました。展開を抑えるにはコード進行を抑えることが重要ですが、その中でも今回のように「ベース (低音) の音をキープ」+「そのままの型で転調を繰り返す」ことが重要だと思います。