Photo by YAMAHA
「ハイブリッドピアノ」と呼ばれるものがあります。
なんぞや? と言うと、
「アコースティックピアノに最も近い電子ピアノ」みたいな感じです。鍵盤に関しては生と同じ素材を使っているので、タッチはアコースティックに近い感じ。
自分が子供だった頃、マンションで電子ピアノでしか練習できなかったので、本番のグランドピアノで演奏する時の「あらゆる差」を子供心ながらに悩んだのを覚えています。
なので親が子供にピアノを買い与えようとする場合、目標の大きさや環境によって投入できる資金に影響が出るのが想像できますが、ハイブリッドピアノを候補に上げる方はまさにそういう部分で迷っている人が多いと思います。
今回はそれらを仮定して、なるべく子供視点、親視点に沿った私のハイブリッドピアノへの価値観を書いてみます。
目次
- ハイブリッドピアノとは?
- ハイブリッドピアノを求める人
- ハイブリッドピアノの価格
- タッチは、アコースティックピアノそのもの
- ハイブリッドピアノを選ぶ理由
- マンションでピアノ鳴らすと苦情がくる
- ヘッドフォンを使う上で考えたいこと
- 生ピアノに「サイレント機能」をつけるのはどうか?
- コスパを考えてしまう理由は「目標の大きさ」が原因
- 自分の活動フィールドと使用する楽器への理解
- 親の立場、視点で再考
- ハイブリッドのピアノの寿命と、生ピアノの寿命
- まとめ
- 最後に
ハイブリッドピアノとは?
アコースティックピアノのタッチに限りなく近いアクション。
これらの価値観を中心に、現在の電子ピアノの最高峰に君臨するのが、この「ハイブリッドピアノ」と呼ばれる機種です。
ハイブリッドで特に注目すべきはやはり「タッチ」です。
2003年頃から YAMAHA が DGP シリーズを出していましたが、現在のラインナップは 「AvantGrand」が中心になっています。
AvantGrand(アバングランド) - ハイブリッドピアノ - ヤマハ株式会社
また、CASIO もハイブリッドに力を入れており、現在では CELVIANO の GP シリーズが存在しています。
CELVIANO Grand Hybrid | 電子楽器 | CASIO
CASIO の GPシリーズはアップライト型になりますが、デザインやサウンドの評価が高いことにも注目です。
ハイブリッドピアノを求める人
ハイブリッドピアノを視野に入れた人で共通することは「とにかくグランドピアノに少しでも性能が近い電子ピアノを選びたい」それなら多少高くてもなんとか買いたい。
こんな感じではないでしょうか?
では実際、ハイブリッドピアノは
「生のグランドやアップライトに比べてどうなの?」
そんな質問が非常に多いのです
ハイブリッドピアノの価格
どうせなら電子ピアノで最高なやつが欲しい、まさにこれ。すごく分かります。
「でも、クソお高いんでしょう?」
はい、クソ高いです。いやクソとか下品なこと言わないでください。
アップライトのNU1は50万近く、グランドタイプのNシリーズは70万〜170万とかいきます。
もはや生ピアノが普通に買えるレベルです。
タッチは、アコースティックピアノそのもの
現段階でもうこれ以上は無理やろ、ってくらいのタッチ。
2003年に出て、改良を重ねて 2009年、2011年に出たものが今のラインナップに入ってますから、もうこれ以上は進化する余地がない、そんな感じでしょうか。
木製鍵盤で構造もほぼ同じ、ただやはり違うのは「響き」です。
どれほどシミュレートしても、やはり最終的に「スピーカーから音が鳴る」と言うのは本体の響板から鳴っていることと違います。
また、ハンマーで弦を叩いているわけではありませんので、やはり生ピアノと同じではありません。
なので、「自宅練習で生ピアノとのタッチ差を無くしたい」と言う方向けです。
ハイブリッドピアノを選ぶ理由
あくまで「機能性」と言う視点から見ていきます。
多くの人は、まず「騒音問題」に直面しています。そして、本番で使う「アコースティックに近いピアノで自宅練習したい」という悩み。
そこでハイブリッドピアノを導入を候補にあげていると思います。
機能面で押さえておきたいメリットは2点。
1つ目は、まず「タッチはアコースティックとほぼ同じ」というメリット、2つ目は「ヘッドフォンが使える」こと。
これがハイブリッドの強み。
では次に、「生のグランドでしか出せない響き、表現」はどうやって習得、練習してくのかが問題です。本番の演奏でグランドを弾く人は、これが一番重要です。
結論から言えば、それらはハイブリッドでも無理なので、生のグランドで練習するしかありません、従って「ピアノスタジオで定期的に練習する」が一番だと思います。
私はハイブリッドピアノを買う時に押さえておくべきことは、基本的にこれだけだと思っています。
マンションでピアノ鳴らすと苦情がくる
先ほども少し触れましたが
ハイブリッドピアノを買う人は「音が全力で出せない環境である」これが前提となってきます。
具体的には、マンション、アパートに住んでいる人です。
電子ピアノを中〜大くらいの音量で、普通にガンガン弾いたことがある人は分かるかと思いますが、最初はよくてもそのうち大迷惑なので「苦情」が来ます。
人は一度音が耳に突くと聞き取る力がついてしまうので、余計気になります。
恥ずかしながら、私も子供の頃はマンション住まいでしたので経験があり、実際に苦情が来ました。いきなり近隣の人に「うるさいぞ」と言われるのは本当にビビります。
まずは謝罪し、実際に隣の相手の部屋に入らせてもらって音を確かめさせてもらいました。
まだ昼間なら生活音、環境音に紛れて少し音を出しても問題なかったのですが、もはやそんな音量では練習になりません。
フォルテッシモ、ピアニッシモ、どんなけ強く弱く弾いても、ダイナミクスがありません。当然ですが「マスターボリュームが低すぎるから」ですね。
何よりも、一度警告を受けている以上は「思いっきり音を出せない」と言う心理が働いてしまい、子供心にも楽しく練習できなかったのを覚えています。
そこで、適正な音量で練習したい場合「ヘッドフォンを使うこと」が前提となります。
ヘッドフォンを使う上で考えたいこと
ヘッドフォンは素晴らしいツールです。
ただ多くの人は、電子ピアノで練習していること、ヘッドフォンでしか音が鳴らせないことは、グランドで思うように弾けない時の言い訳にしてしまいがちです。
それは少なからず事実だと思いますし、私もそうでした。
しかし、そんな中でも結果を出せるような奏者になりたいのであれば、できる範囲内でどうするかを考え、工夫するしかありません。
ただそれは大人の視点。
子供はそんなこと考えれませんし、そういう視点ではありません。
生まれる場所、住む場所は選べません。しかしマンションに住んでいてピアノに出会ったのであればそれも運命、その中で続けれる (させれる) 方法を考えいきたいものです。
本来ヘッドフォンは、そのような音が出せない環境でも練習できるツール。もう一度、そのありがたさを理解してみるもの良いでしょう。
資金力がある人と比べ始めたらキリがありませんし、それでも今は良い製品が多いのでピアノを弾く人にとっても良い時代だと思います。
生ピアノに「サイレント機能」をつけるのはどうか?
ハイブリッドと生ピアノの価格差があまりないことから、では生ピアノを買って「消音ユニット」をつければ満足度は高いのでは? と言う疑問。
結論から書くと、一度消音ユニットを付けると音や表現は劣化するようです。
調べたのですが、根本的な設定をいじる為、連打がしにくいのと、ピアニッシモが出にくくなる、と言う問題が発生するようです。
その加減を最小限に抑えるのは、調律師の腕前にもよるとのこと。
さらには、ヘッドフォンを使う場合でもその影響を引き継いでしまい、結局は「ハイブリッドピアノと大差ない練習環境」になると言えます。
詳しくはこちらを参照
結論を書くと、どちらにせよ音が生で全力で出せない場合、ヘッドフォンを使って電子ピアノで練習し、定期的にグランドで練習する、のが現実的だと思います。
ハイブリッドピアノの長所と短所
簡単にまとめると、
ハイブリッドピアノの長所
- ヘッドフォンが使える
- タッチがアコースティックと同じ
つまり、ヘッドフォンで生ピアノのタッチの練習ができること
ハイブリッドの短所
- ヘッドフォンで弾いても、またはスピーカーで鳴らしても、音や響きは電子ピアノ (綺麗に鳴ってしまう)
- 通常の電子ピアノに比べて価格が高すぎる
それでもタッチが木製鍵盤のアクションなら、普通の電子ピアノよりは全然良いと思いますが、ここで気になってくるのは「値段」です。
機能性だけで書くと、ヘッドフォンが使えて生ピアノのタッチで練習できる、という価値だけで、プラス何十万も払えるかどうか、と言う話になります。
で、次に考えることは「コストパフォーマンス」になります。
私は電子ピアノを買う上でコスパを考えていくならば、一番重要なことはまず「目標の大きさを決めること」だと思っています。
コスパを考えてしまう理由は「目標の大きさ」が原因
コスパを求めてしまうのは、結局は「目標、目的」が影響してきます。
では具体的に「お子さんの為にピアノを買う」と仮定して考えてみます。
先に私の価値観を書くと、
別段、プロのピアニストを目指してないのであれば、普通の電子ピアノ、もしくはステージピアノでも問題ないと思っています。
その環境で工夫して上達し、素晴らしい演奏をする人はたくさんいます。
おそらく問題になってくるのは、
「クラシックのコンクールや発表会でグランドを弾く人」
「そういった次元の表現レベルを目指す人」
「プロのピアニスト、音大を目指す人」
ご自身の子供がその対象に当てはまるかどうか。
ピアノ奏者を目指す上で根本的に考えるべきこと
話が少しそれますが、大人になってからの私の価値観を書きます。
実は、ピアノを演奏する人が考えるべきことは、「グランドピアノでもきちんと弾けるかどうか」ではないと私は思っています。
それはただの仮定の話です。
つまり、グランドで実際弾けるかどうかは、まだどうでもいい話です。
「この先、すでにグランドで演奏する機会がある、または決まっている」
そこで初めてグランドピアノで対応出来なければならない、という話です。
それが前項で書いたような目的、目標を持っている人に限ります。
自分の活動フィールドと使用する楽器への理解
誰でも出来るなら生ピアノを上手く鳴らしたい、と言う欲望は当然あるでしょう。
しかし、では私のようにライブハウスでピアノの音を弾く場合、重要なのはグランドピアノで上手く弾けることではなく、自分の機材「ステージピアノで上手く弾けるかどうか」になります。
それは、そう言う場所で、そう言うジャンル、演奏形態、曲を演奏するから、ですね。
つまり、いくら実際にはグランドで上手く弾けたとしても、その場面においてはステージピアノで上手く弾けなければ全く意味がない、と言えます。
それは逆に、家で電子ピアノが完璧に弾けても、コンクールでグランドが思うように弾けなければ評価に繋がらないので全く意味がない、のと同義です。
それが「自分の演奏フィールドへの理解、そこで使用する機材 (ピアノ) に対しての目標を明確にする」ということだと思います。
本番がライブハウスやバー、そこでグランドを弾くことになるということを予め分かっているのであれば、では次はそれに向けてグランドで練習しておかなければならないな、というだけの話です。
ただ前項のようなピアニストを目指している場合、人前で技巧的なクラシックピアノの曲を、慣れてないグランドピアノで演奏することになります。
だから
「生ピアノに近いタッチで練習出来るかどうか」
「グランドで上手く弾けるか、表現出来るかどうか」
「電子ピアノの濁らないサンプリング音に慣れてしまうと、グランドでは音が濁ってしまう原因になる」
そのようなに色々と問題が出てくるのですね。
聴く側の視点
では、逆に演奏を聴いてくれる人は、その次元の耳を持っていて、上記のような表現の違いを見分けながら演奏を聴いているのか、またはそれで評価するのか。
コンクールではそのような審査員の中での演奏だと思いますが、ピアノのお稽古、発表会ではそれはありえないので、電子ピアノで十分です。
ただ、子供が練習と本番で差があると感じ始め、上手く弾けないのは確かにかわいそうかもしれません。
すると、ではそこに投資できるかどうか、になります。
中には、物心がつくまでは感性で弾かせていくことになるからこそ、ピアノ自体は早いうちから本番と近いものを用意してあげたい、そういう価値観もあります。
それは「幼い子供が電子と生ピアノの違いを理解しながら弾けないから」ですね。
(まぁ別に弾ける人もいるとは思いますが・・・)
だとすれば、確かに強制的に生ピアノで弾かせていかないと、生ピアノの性能を引き出すような表現や演奏性は研ぎ澄まされないとは思います。
したがって、具体的な目標の大きさが決まっていなければ、手軽にハイブリッドを払える金額ではないことで悩むのは当然の話になってきます。
親の立場、視点で再考
仮に自分が親なら、
例えば自分もピアノを弾くならついでに子供のためにもハイブリッドを、と考えるのはまだ理解できます。
しかし親がピアノ未経験で本当に子供しか弾かないのに、そこに何十万〜何百万出せるか、というのはかなり大変な選択だと思います。
ピアノ未経験だとなおさらピアノに関する違いも分かりにくいし、実際弾くのは子供なので悩みの共感もし辛いと思うんですよね。
実際、電子と生は本当に全然違うので「弾きにくい」と子供はいずれ言ってくるでしょうし、私も親やピアノの先生にそれはよく言ってました。
私の場合は、そこそこ力を入れてピアノを習っていたとは言え、発表会の本番では慣れてないから弾きにくい、と言うだけの話です。
演奏を聴く人もレッスン生、親や身内ですから何の問題もありません。
これが「目標の大きさ」だと思います。
「仕方ないわ、あなたの家はマンションだから電子ピアノしか置けないんだから」
「まぁ弾きにくいけど趣味だし・・・レッスンの時に練習して弾ければいっか」
だから私はグランドとかアップライトじゃなくても別にいいや、と諦めれます。
ただ中には音大やピアニストを目指している人もいると思います。または、その一歩手前、もしくは、その道へ行かせるか迷っている方など。
ハイブリッドであれば、タッチに関してはある程度は練習と本番の差を無くすことが可能だと思いますが、その他の響きや表現に関しては当然グランドで、となります。
「グランドピアノで上手く鳴らす為に必要な表現力を身につけさせたい」
そう言ったレベルの目標を持っている人で、生ピアノは買えないし音もヘッドフォンでしか鳴らせないから、じゃあせめてタッチだけでも、とハイブリッドを候補に上げるのはとても共感できます。
音大生にもなれば学校でグランドを弾くことができると考えていくと、あくまでそこまでの期間をどうしてくか、と言う考え方になってくるのかもしれませんね。
まぁ、私はあまりその辺は詳しくないのでこれ以上は書けませんが・・・。
(音大とかピアニスト目指す人はこんな次元の話じゃないとは思いますがw)
ハイブリッドのピアノの寿命と、生ピアノの寿命
ハイブリッドは10〜15年と言われてます。
木製鍵盤だからメンテナンスは必要と言われていますが、アコースティックピアノよりも簡易的だと言われています。生ピアノは、それに加えて調律も必要です。
結局、少なからず「維持費がかかる」んですね。
生ピアノは小まめにメンテナスすれば一生レベルで使えるとも聞きます、だから中古でもおすすめのようですね。
どの機種、中古新品、どのような状態のものを買うかにもよりますが、ハイブリッドは電子ピアノなので、もし先を見越して売却を視野に入れているのであれば、10年後にいくらで売れるか、も人によっては重要でしょう。
しかし、寿命が10〜15年とアナウンスしていることを考えると、10年後にその使い倒した機種を中古で欲しがる人がいるでしょうか。いるとは思いますが、問題は売値です。
こちらにも書いていますが、電子ピアノは電化製品なので、値段が大きくなればなるほど、売るときに「価格差」が派生します。
反面、4万円台の電子ピアノは安価で価格差も低く高性能な製品に比べても需要も高いので、何年か経っても状態が良ければ半額以上でも売れます。
それは、エントリーユーザーが多いためです。軽自動車が需要があって高く売れるのが良い例ですね。
それらを踏まえて、「ハイブリッドが"今"必要なのか」ということを再考したいものです。
まとめ
繰り返し、現実的な方法を考えるとすれば、やはり基本的には自宅では電子ピアノで練習して、本番前はピアノスタジオでグランドを借りるのが一番シンプルだと思います。
住まいや環境によっても、グランドピアノが置いてある練習スタジオを探す手間はかかりますが、どんな環境でもピアニストを目指したい (させたい) と思うなら、定期的にグランドに触れる機会を作り出してくことが重要になってくると思います。
クラシック奏者を目指す場合、生が鳴らせないなら自宅練習はハイブリッドピアノがオススメ、またクラシックだけにとどまらず、ミュージシャン、バンドの選択も視野に入れていくのであれば「ステージピアノ」の選択もありだと思います。
親であれば子供の目標、未来や可能性、
自分用の購入で悩んでいるのであれば、どのフィールドで活動していくのか、それに対して自宅練習でハイブリッドレベルが必要なのか
迷ったら、上記の目標、目的の大きさを明確にすることで、「投資出来る金額が決まる」と思います。
最後に
資金と環境さえあれば、、
私はクラシックからお稽古でピアノを初めて、最終的にはキーボードやシンセに転向し、今は作曲が中心になっています。
私なら自分用であればハイブリッドは買わず、ヘッドフォンを使わなくても良い環境を先に用意して、それから生ピアノを買いたいなぁと思います。
毎日グランドが弾けたらそれも幸せですが、ピア二ストでは無いので自宅ではステージピアノで十分ですし、たまにスタジオで弾ければ良いなと言う感じですね。
それでも今のマンション住まいで買うなら、アップライトタイプの NU1 がまだ候補に上がるかもしれません。
ただしこれは自分の為に買う場合の話。
やはり一番は「子供の為に買うかどうか」で悩んでる方が多いと思います。
偏った観点もあったと思いますが、少しでもハイブリッドピアノの購入の参考に慣れば幸いです。